みゆきの日記
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2005年11月12日(土) 優しい目

柴田さんに5年半ぶりに再会したその日、話をしたのはほんの10分ほどだった。
オフィスだったから、周りに人がたくさんいて、私は終始敬語で。

「久しぶり。お変わりにならずに。」

「ご無沙汰・・・してます。」

「お一人?」

いきなり聞かれた。緊張のあまり、私は意味がわからない。

「えっ?」

「お子さんは」

「ああ、ええ。一人です。」

「おいくつになられたの」

「3歳です」

「もう3歳か・・・早いな。」

柴田さんは、案外私の近況をよく知っているようだった。
私だって、知っているけど。
情報源は同じ人だ。
私の元同僚。彼女も同席している。

「ここも変わったでしょう。
 XX君は今日からアメリカ、XXはシドニーに去年から行ってるし、
 XX君はXX連れてタイだよ、社長でね。
 俺くらいですよ、こんなに長くいるの。」

「で、でも、柴田さんだって・・・」

「もう4年半。帰国してね。
 ちょうど松嶋さんと入れ違いくらいじゃないかな。」

「もう4年半もたつんですか・・」

柴田さんが帰国した年のことはよく覚えていた。
そうだ、あれって2001年だったから4年半だよね。

「そうだよ、もう45。今日誕生日だから。」

「えっ今日誕生日なんですか?おめでとうございます。」

本当は柴田さんの誕生日を私ははっきり覚えていた。
殊更に驚いてみせる自分がわざとらしいな、と思う。

柴田さんは相変わらず、滑らかに話し続けている。
澱みなく次々と唇に上せられる言葉は、久しぶりに会った元部下に対する、
ごく一般的な世間話でしかなくて、私は少し焦るような気持ちになる。
同席している元同僚が、時々口を挟み、会話はスムーズに流れていく。
柴田さんに会ったら話したいことがたくさんあったような気がするけれど、
この流れの中では、なにも思い出せない。
何より私は緊張していて、ほとんど話すことすらできなかった。

「それじゃ、どうも。
 また、機会があったら寄ってください。
 お元気で。」

ほとんど一人で話していた柴田さんが、こう話を打ち切って立ち上がったので、
私は退席するより他なかった。
ほとんど何も話すことができなかったことが少し心残りだったけど、
柴田さんは変わらず、元気で精力的で、魅力にあふれていたので、
やはり会えてよかったと思った。

柴田さんの目を見たら、目がすごく笑っていた。
よそよそしい丁寧な言葉で話しながら、なんて目が優しいのだろう。
少し胸が熱くなった。

元同僚とも別れ、一人、銀座を歩きながら私は何を求めて柴田さんに会ったのだろうと思った。
今日ならメールを送ってもおかしくない。
また会いたいと思っているの?
二人きりで会いたい?
メールでもいいからつながっていたい?
そういう感情も、もうあまりないような気もした。

お元気でご活躍なら、それでもう十分かな。
そんな風にも思っている。


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