みゆきの日記
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銀座で買い物をしているときも、家に帰る電車の中でも、 ずっと柴田さんに送るメールの文章を考えていた。
「会えて嬉しかった」
ただ、そのことだけを伝えたいと思った。
柴田さんと最後に話をしたときのことを、私はよく覚えていた。 それは、結婚式を翌日に控えた日の午後のことで、 私はトモユキと二人で南国の新しい家で過ごしていて、 突然私の携帯電話が鳴ったのだった。
「柴田です。」
あまりに意外だったので私は驚き、でも平静を装って話した。 トモユキは、テレビに目をやっている。
「ご結婚おめでとう。奥山さんから聞いたんだよ。 よかったな。」
「ありがとうございます。 わざわざ、すみませんでした。 奥山さんにもよろしくお伝えください。」
私はできるだけよそよそしく、敬語で話して、 そしてすぐに電話を切った。 トモユキには、
「前の会社の人。奥山さんから聞いてわざわざ電話くれたのよ。」
そう言った。 私のよそよそしさに、きっと柴田さんは嫌な気持ちで電話を切ったのではないかと思った。 でも私は間違っていない。 柴田さんのことはとても好きだけど、どうすることもできないこともある。 私にはもっともっと大切なものがあるのだ。
今も、その気持ちは変わっていないのに、 今日会えて嬉しかった、その気持ちを伝えたいと思っている自分がいる。 ただそれだけのことだけど、それがすべてのきっかけとなるのかもしれない。 どうしてもかたくなに避けて通るべきことなのかもしれない。 かつての私はこういうことを何度も繰り返してきたのではなかったか? 結婚して4年間、昔の恋人はおろか、男性の友だちとのつきあいもメールのやりとりさえも断って、 トモユキだけを見てきたのに。
結局私はこんなメールを送った。
「今日はお仕事中お邪魔しました。 久しぶりに、柴田さんのお元気そうなお顔が見られてよかったです。 これからも、お元気で。」
返信はすぐに来た。
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