(1) 最近気になる言葉があって、それがことあるごとにぼくの頭の中をよぎっていく。 どんな言葉なのかというと、「ゆっくり、ゆっくり」だ。 どういう意図があって、こういう言葉がよぎるのだろう? 焦っている自分を戒めているのだろうか。 そういえば、その言葉が頭の中をよぎる時は、決まって緊張感が漂っているような気がする。
しかし気になる。 ということで、今日それが何を意味しているのかを確かめる実験をやってみた。 「ゆっくり、ゆっくり」を行動に移してみたのだ。 つまり、すべてのことをゆっくりやってみたわけだ。 歩くのもゆっくり、動作もゆっくり、考え事もゆっくりである。 すると、面白い結果が出た。
歩いている時のことだが、ゆっくりを実践していると、不思議と信号などに引っかからないことがわかった。 信号にさしかかった時にタイミングよく青になって、待たなくてすんだり、信号のないところでも、道路を渡ろうとすると、車がまったく走ってなかったりした。 つまり、すべてが順調に流れたわけだ。
そういうふうにやっていくと、仮に信号で引っかかったとしても、「この流れに意図があるので引っかかったんだ」とか、「ちょっと焦っていたんだ」などと思って、そのことに腹を立てたり、落胆したりということがなくなるだろう。
運というのはタイミングだと聞くが、もしかしたら、この「ゆっくり、ゆっくり」の呼吸が、ぼくの幸運のタイミングなのかもしれない。 きっと神とか宇宙意識とかいうものが、それを教えてくれたのだろう。
(2) 昔、本で読んだのだが、ある武士が殿様から「霊験あらたかな金言を探してこい」と命じられ、諸国を巡る話があった。 長い時間をかけて探したあげくに、ようやくその金言を見つけた。 その金言とは「待ったり、待ったり」だった。
さて、その言葉を見つけ、久しぶりに我が家に戻った彼は、家の窓に不審な影を見た。 妻一人しかいないはずの家の中に、もうひとつの影があるのだ。 それはどう見ても男の影で、二人は仲むつまじく寄り添っているではないか。
カッと来た武士は、刀を抜いて家の中に飛び込もうとした。 その時だった。 彼は例の金言を思い出したのだ。 「待ったり、待ったり」 さっそく、それを実践してみることにした。
ひと呼吸置き、心を落ち着けてから家の中に入ってみると、そこにいたのは妻の父親だった。 自分が長いこと家を空けて帰ってこないので、心配して様子を見に来ていたらしい。 「待ったり、待ったり」のおかげで、大事に至らずにすんだというわけだ。
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