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いつもより少し、異邦人としての梨木香歩が、 真剣なエッセイのなかにたたずんでいる。
イギリス留学時代からずっと続く、 ホームステイ先の女主人、ウェスト夫人とのつきあい。 そして、彼女のまわりにはりめぐらされた、 人たちとのつきあい。
しがらみと呼ぶには、あまりにも繊細な異邦の交流。 けれど、透明に近くなったお互いの距離が、 どこかでふっとくもってしまう。 「人を愛することは誰にでもできる平凡なことだが、 理解することは誰にでも許されることではない」 と言ったL・M・モンゴメリを思い出す。
読んでいて、はっとした。 「夜行列車」というタイトルの一篇は、 そのモンゴメリにちなんだ大陸横断鉄道の旅だった。 梨木香歩がモンゴメリの世界にどれほど潜って いるのかがわかる、ほとんど説明のいらない「意思」。 作品だけでなく、モンゴメリの人生の暗い面にも シンパシィを感じとっている人から発せられた、 いく条かの光線に触れた。
列車の中でのできごと。 人生の瞬間瞬間のすべてに意味があるのだとすれば、 「ここはあなたの席ではない」といわれる悲しみは、 モンゴメリが少女時代、この道をたどった帰り道での 心境にも通じるものがあった、のかもしれず。
つい先日、『裏庭』を読み返したばかりで、 あの世界と『からくりからくさ』の空気のあいだを 風船のようにただよっている私には、この本で 着地する場所を見つけたような思いがした。 (マーズ)
『春になったら苺を摘みに』 著者:梨木香歩 / 出版社:新潮社2002
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管理者:お天気猫や
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