ヒトリゴト partIII
 Moritty



私は何故ここにいるのか。

2003年02月01日(土)

今日は何もする気が起きず、朝からぼんやりしていた。天気が割と良かったので、家でだらだらしていることに罪悪感を覚えたけれどそれも一瞬で、近所のスーパーに食料品を買いに行った以外は外に出ることもせずに雑誌やマンガを読んでいた。くだらない雑誌や昔読んだマンガを流し読みしたりしていたが、それも飽きたので買ったのに読んでいなかった南木佳士の『ダイヤモンドダスト』を読んだ。芥川賞を受賞した「ダイヤモンドダスト」を含む四つの短編集で、テーマは生と死と愛。表題の「ダイヤモンドダスト」はとても重い話なのに心が温かくなる、そんな話だった。南木佳士は信州で医者をする傍ら、小説やエッセイを書いていて、彼の書く小説の主人公はみな地味で真面目に生きる普通の人々だ。そんな彼らの日常や非日常を淡々と客観的でクールに描いている。それなのに、その言葉はとてもやさしく、暖かく、心に沁みる。それは、おそらく彼が医者として、多くの不治の病を抱えた人々やその家族と接しているからかもしれない。生と死と愛を、生身で感じているからかもしれない。

「ダイヤモンドダスト」の中で心に打つシーンはたくさんあったけれど、そのひとつは、主人公が看護士として勤める病院に末期の肺ガンで、異国の日本で家族も友人もなく、たった一人で入院しているマイク・チャンドラーというアメリカ人と主人公の会話だ。マイクの病状はかなり悪化しており、彼は自分の死が近づいていることを知っている。ある夜中に、主人公に聞いて欲しい話がある、と言って話を始める。
彼はベトナム戦争でファントムの操縦士だったが、夜間飛行中に燃料漏れを起こし、座席ごと下界の海にパラシュートで脱出する。その時、夜空を見上げて彼は思った。
「誰かこの星たちの位置をアレンジした人がいる。私はそのとき確信したのです。海に落ちてから、私の心はとても平和でした。その人の胸に抱かれて、星たちと同じ規則でアレンジされている自分を見出して、心の底から安心したのです。今、星を見ていて、あのときのやすらかな気持ちを想い出したかったのです。誰かに話すことで想い出したかったのです。」

自分がなぜここにいるのか、と思い、とても不安になることがある。きっと、その答えは「自分がここにいると決まっているから」ということなのかもしれない。なんだか、ヒトリゴトpart Iチックになってしまったかも。


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