ディープ湯の風呂は熱い。なぜなら台東区谷中にある銭湯だから。 下町の中の下町。コテコテの下町。超ディープ。 ここで昨日かなり死に近づいた人をみた。隣で。だから臨死体験。
ディープ湯の風呂は熱い。だから普通の人は水でうめてから入る。私も そうする。でも普通でない人、ディープな人に怒られたときのために、い つでも口答えのことばは考えている。いわく、熱いお湯は身体に悪い&最 近のお風呂は保温循環しているからヌルくなってもまた元の温度にもどる などなど。 銭湯には熱い浴槽とより熱くて深い浴槽がありまする。2人のおばさん がそれぞれに腰までつかっておしゃべりしてました。熱いほうには超普通 のおばさんが水でジャージャーうめながら「熱いお湯は身体に悪いし、熱 いと、長くはいっていられないから結局身体が温まらない」と現代的に正 論をいい、また「深いおふろは怖い」とカマトトチックな声で言っていま した。より熱いほうのおばさんも「そうよねえ、せめて3〜4分入らない とあったまらないわよねえ」「深いほうも立ってはいれば肩がでるし、全 身ではいるのは気持ちいいわよ」なんてことを言っていました。水を出し ながら。そこに見るからにディープの人がやってきて私は横目でみながら (これは、はじまる)と思いここから私の臨死体験ははじまったのです。
ディープ婆さんは迷いなくより熱のほうに入りいきなり肩まで浸かりま した。あわてて3〜4分おばさんは水を止めました。正解です。カマトト おばさんはそのままジャージャー出しっぱなしでした。ディープ婆さんが 低い声でボソボソなにか言うと、3〜4分おばさんも肩まで浸かり、カマ トトおばさんに気持ちいいからこっちに入ってみなさい、と誘いました。 「でも怖いのよ〜」とまた気持ち悪いカン高い声でいい、誘いの言葉と怖 い、の声が繰り返されカマトトおばさんは浴槽をでてしまい、カランの前 に戻りました。正解です。3〜4分おばさんはディープ婆さんから逃げる こともできず、二人は肩まで浸かって「風呂とは」について語り続けまし た。(正確にはおばさんは婆さんの言葉にうなづいていただけ。) わたしは上がり際に確認しました。熱い方は44℃。より熱の方は47 ℃!おばさんは婆さんがはいる2〜3分前からはいっています。頭を洗い ながらドキドキしました。洗いおわっても二人はまだ入っている!婆さん のほうは心配ない。でもおばさんは・・・そうして婆さんはやっと腰をあ げ、おばさんも当然いっしょに上がりました。足をフラ付かせなかったお ばさんを心の中で褒め称えていると、婆さんの背中あわせにおばさんはし ゃがみ、(偶然わたしの隣でした)頭を足のあいだに入れ、うつむいて荒 い呼吸をはじめました。横顔は赤というよりドス黒く、「この人は私の隣 で、真っ裸で死ぬのではないか?」と怖くなりました。そうして3分ほど そうしてジッとうずくまっていたかと思うと、いきなり水をジャージャー 出して、頭を突っ込みました。そのままタオルを水で濡らし首の後ろにあ て、水をかぶり続けました。おばさんの頭の中に「わたし死ぬかも」とい う恐怖がグルグルしているのが見ていてわかりました。
その間婆さんは平気の平左で身体を洗っておりました。 やっとおばさんが水を止め、だるい仕草ながらも身体を洗いはじめたの で、「おばさん、無理はだめだよ」と心の中でつぶやき、わたしももう一 度あったまりに、熱い方にはいりました。肩はだして。3〜4分浸かって さあ、シャワーあびてでよう、としていると婆さんも洗いおわり当然より 熱の方にザブンと入りました。肩まで。「すげえ、でもまあディープの人 だからな」と脱衣所にでようとしたとき、もう飽きれたね。 おばさんは又婆さんの隣、より熱の肩までコーナーに入っていったので す!あんたさっき死にそうだったじゃん。そんなに婆さんに銭湯のプロと 認められたいのか。そうこうするうち、カマトトおばさんも水だし熱ぶろ の方にはいり、気持ちいいわよ、怖いのよ〜、の掛けあいが再開し、私も もう飽きれたのと飽きたのとで、後ろを見ずにあがりました。
げに恐ろしきはディープな人の風呂哲学オーラなり。
今年はこれでおしまい。
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