思考回路2011
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その後、警察に電話した。店長も部長も、事務所のエライさんも 店に来た。店長は目線をあわさなかった。 詐欺にあったことよりも、どうして金庫からお金を動かすのに 許可を得なかったのかに怒っていた。 部長もエライさんも不思議なことに怒ってはこなかった。 むしろ声は穏やかで、逆に不気味だった。 カバとゴリラとナスに似た警官の要領を得ない質問に答え わたしは1人、警察署につれていかれた。 カタカタと古い形のワープロが鳴る中、一部始終を語りおえる。 近くの別の個室から、怒鳴り声が聞こえてくる。 モンタージュはあまりにも原始的なシロモノで、自分で似顔絵を 描いた。この似顔絵は70%くらい似ていますと描いて拇印を 押した。こんなときに役に立つとはなんともまあ。 店に一度もどった、時間は夜7時を過ぎていた。 一緒にお金を数えていた古株の子が心配そうな顔で迎えた。 事務所で店長に電話をいれた。 もうすぐ1年になる、関係の修復不可能と思われていた 宿敵店長。ストレスの元凶店長。 店長はちょうど社長のところから帰ったところだったようだ。 社長は笑っていたと言った。どーしてそうなるかなと あきれた笑いだったのかもしれない。 最近はうちの系列の店の体制がゆるんでいていたので、いい教訓に なったとも言っていたが、お金はわたしが弁償することになった。 3分の1を監督不行届で店長が残りの3分の2をわたしが。 すみませんと謝ると、ブァーカ!と言われた。 辞めることを考えたかと聞かれ、はいと答えた。むしろクビだろうと 思っていたから。 「辞めることなんて考えなくていいから。居心地を自分で悪くしないように」 まったくこの人からこんなセリフを聞こうとは思いもよらなかった。 この事務所で店長に何度泣かされたことか。 そうしてまた泣いたけど、今までとは違う理由だった。 うちの店に秘密はない。あっという間に広がるだろう。 実際、あっという間に広まった(笑)。 いろいろ聞かれ、それぞれの方法で慰めてくれていた。 いいヤツらだなぁと、思った。 この店に来てよかったと思った。 高い授業料を払ったが、別のものをもたらしてくれた 七夕の出来事だった。
(この話はノンフィクションです)
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