petit aqua vita
日頃のつぶやきやら、たまに小ネタやら…

2003年04月17日(木) 『ビアンコ・ネロ』(ル神小ネタ)

『アツシ、そろそろ教えてくれても良いだロウ?セリエAの、ドコなんだ?』
「んー……。今まで日本人が入ったことがないチーム」
『…コラ。』
「だいぶそれで絞られねぇか?ペルージャとローマとパルマとレッジーナとフィオレンティーナとミランは消えただろ?」
『それでもマダ広い。北か?南カ?』
「北。独逸寄りだな」
『というコトは結構伝統チームっぽいナ……アツシ』
「…んだよ」
『オマエを入れる目的は、残留の為カ?スクデッドを獲る為カ?』
「中盤の層を厚くして、より攻撃にスピードを持たせたい、って言ってたぜ。もちろん、狙いはスクデッド……だいだい分かったろ」

ルディは、神谷の言葉にくすりと笑った。
その吐息の音が受話器から微かに聞こえてきて、神谷もくすぐったそうに笑った。

『ビアンコ・ネロ…か…?』
「アタリ」

ビアンコ・ネロ。白と黒とのストライプ。
…そしてクラブ創立以来、Bに降格したことがない、名門中の名門。
ヴェッキア・シニョーラ(老貴婦人)の愛称を持つ、伝統と常勝に彩られたチーム。


『「ユベントス」』


洗練されたデザインのそのユニフォームは、きっと神谷に似合うに違いない。
もう、何年も前から着ているように、堂々として。

『背番号ハ?』
「それはゲームを見に来た時のお楽しみだな」

神谷の口調からも、機嫌が良いのが分かる。…という事は、納得できる背番号をもらったという事だろう。

「イタリア語も、だいぶ教わったぜー♪トレーニング中とか、ミニゲームの時に教わったりして」
『ドンナ?』
「えーと、まず【ヴァッファンクーロ】だろー。これは最上級だから、とっておきの時にしておけって言われた。それから【フィッリョディプッターナ】、普段も使える【カッツォ】、敵に向かってなら【ポるカミゼーりア、ポるコカーネ】【マンナッジャアテ】、【フォッティティ】味方がミスったら【ヴァアカガーレ】………な、すげーだろ♪」


『……………………』
「ルディ?」
『アツシ……ソレ、誰に教わっタ…?』
「えー?ピエロとかー、チームの奴等。あと、ゲーム中とか、皆言ってるし、スタンドからも聞こえてくるから、耳で覚えちまった」

ルディは、受話器を持ったまま頭を抱えて座り込んだ。チームメイトからと、ゲーム中と、そしてスタジアム。…最悪のイタリア語を覚えるには最高の環境が整いすぎている。

『アツシ』
「ん?」
『悪い事は言わナイ、今覚えたイタリア語は、全部忘れロ』
「何でー。せっかく覚えたのに」
『お前が言っタ言葉は、全部「パろラッチャ」ダ!!』
「へ?」
『……ツマリ、テレビでそれヲ言おうものナラ、全部音が入って消されル言葉なんダ!』
「放送禁止用語?」
『ソウ』
「あいつら〜!」
『だから頼むカラまともなイタリア語を覚えてクレ……』
「いーや!!このままじゃ済まさねぇ!」
『ナニ』
「あいつらにも、日本語の放送禁止用語教えちゃる!!それか、日本でもド辺境の方言!!」
『…………………』

ルディは改めて、この恋人の逞しさを思い知った。異国の地でただひとり、心細い思いをしていないかと心配だったのだが…なかなかどうして、しっかりチームに馴染んでいる。
『アツシ』
「ああ?!」
…まだ怒っているようだ。
『早くビアンコ・ネロのユニフォームを着テ、ピッチに立つお前ガ見たイ』
そう告げると、しばらく沈黙が返ってきた。
…しかし、なんとなく分かる。
神谷が、気負いもなく、自らの実力の元にある自信によって、ニヤリと笑う表情が。

「長くは待たせねぇよ」
『……アア。ピッチの上で会うノを、楽しみニしてイル』
「そっちこそ、変なトコロでコケんなよ」
『するものカ』
「怪我だけは、すんなよ」
『そっちコソ。ムチャだけは、スルナよ』

「……ルディ」
『ン?』





………囁くような吐息に乗せた呟きが、消える頃。
神谷はゆっくりと受話器を下ろし、
ルディは、切れた電話にそっとキスをした。


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平 知嗣 [HOMEPAGE]

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