2003年05月21日(水) |
『マイ・フェア・レディ』(ヒカル女の子ネタ。当然オガヒカ) |
「緒方十段っっ!!その子捕まえててくださいっっ!!!」 「何?!」
日本棋院のエレベーターから出てきた直後、子供が正面から勢いよくぶつかってきた。思わず受け止めてしまったのだが、その時に女流棋士の甲高い声が耳に入ってきた。
「ごめんなさい見逃して……って、げっ!!緒方先生!!」
ぶつかってきた子供が顔を上げた瞬間に、見えたのは特徴のありすぎる金と黒とのツートンカラーの柔らかい髪。大きな瞳。 ――こんな髪を持つ人物など、棋界にはただひとり。 「よぉ、進藤。…今度は何をやったんだ?」 自ら飛び込んできた格好の退屈凌ぎのエサを、緒方が逃すことなんてさらさらなく。背中に腕を回して、しっかり捕獲。
「ちょ……離して……ってば!ねぇ!」 「嫌なこった」
じたばたともがく獲物の感触すら楽しむように、緒方はくつくつと笑う。 まだプロになりたてだった頃は子供臭さが抜けず、ふくふくと愛らしい頬をしていたのが、連続不戦敗から復帰したあたりからその丸みはほっそりと柔らかいラインを描くようになり、全体の印象も、身長も伸びたせいかすらりとした感じになってきた。 しかし身長は伸びたものの、筋肉がついたような感触はない。胸板も薄いし、首から肩の線もまろやかで、腰に回した手が妙にしっくりくる。慣れた感触。
「……ふーん」 「な、何だよっ!人の体ベタベタ触るなって!!」
そんなやりとりをしている間に、先程の女流棋士が息をきらせて駆け寄ってきた。 「あーもう!やっと捕まえた!!だめじゃない、これは仕事って言ったでしょう?!」 「仕事って言ったって!!あんなモノ着なきゃいけないなんて聞いてない!」 「…事前に聞いてたら逃げるでしょう?」 「当たり前だっっ!!」
目の前の女流棋士はこめかみを押さえながらふう、とため息をついた。 「強制連行します。緒方先生、お手数ですが進藤三段を抱えて連れて来ていただけます?」 「承知しました。浅海名人」 「女流だけどね」 ふふ、と浅海七段は笑ってみせた。 ショートカットの、きつめの美人。きびきびとした動作と受け答えは、緒方の好みからいっても、悪くない。 …そして、これから何が起こるのか、大いに楽しみでもある。 緒方は、ヒカルの体をひょい、と抱き上げた。 …いわゆる、「お姫さまだっこ」で。
「何だよコレは〜〜!!」 耳元できゃんきゃんわめかれる声に顔をしかめながら、緒方は楽しそうに唇をゆがめた。 …そしてヒカルを抱えていた腕から一瞬だけ力を抜く。 「ひゃっ!!」 突然の墜落感に、ヒカルは思わず緒方にしがみついた。
「それで良い」 「うわ〜、悪党」 思わずもらした浅海七段の呟きに、緒方は笑う。 「何か言ったか?」 浅海七段は、鮮やかなほどににっこりと笑みを返した。 「いいえ、何も。…さ、こちらです」 そしてくるりと踵を返し、先に立って歩き始める。
緒方は彼女について歩きながら、緒方は上機嫌のまま言ってのけた。 「進藤…」 「何」 ぶすくれた顔のヒカル。 緒方はそれでも、楽しそうだった。
「お前、女だったんだな」
その言葉にヒカルは「あ」と声を上げる。 公然と言ってまわらないだけで、ヒカルは実は女の子だ。 ただし、服の好みや言動が、どうやっても「やんちゃな男の子」としか見られなかった。周囲が間違えているだろうと分かってはいたけれども、いわゆる「男友達」のつきあい方の方が、さっぱりしてて何かと楽だったので、そのままにしておいたのだ。 棋院の登録には、ヒカルはちゃんと「女流棋士」として登録されている。…ただ、いつも顔を合わせているのに、わざわざ棋院に問い合わせる者もいなかっただけで。
しかし、ここで疑問がひとつ。今迄だって緒方は自分を「男の子」と思っていた筈だ。なのに何で分かったのだろう?
「どうして分かったんだよ。オレが…女だって」 ヒカルの疑問に、緒方は嬉しそうに笑ってみせる。モノローグをつけるなら、「よくぞ聞いてくれました♪」…あたりか。
「そりゃあ……こうして直に触ってるんだ。分からない筈がないだろう?」
え?触ってる? ヒカルはひょい、と緒方に抱き上げられている自分を見た。緒方の右腕は膝の下から脚を抱え、そして、左腕は……緒方の長い腕は細いヒカルの体にしっかりとまわされ、その大きな掌は………
ヒカルの、ささやかな胸のふくらみの上にあった。
「緒方さんのスケベっっっ!!ヘンタイ!!ロリコン!!悪徳外道〜〜〜〜〜っっっっ!!!」
ぱちーん!という小気味の良い音と、ヒカルの絶叫が同時に聞こえ、
浅海七段は、ヒカルの台詞にまさにその通り!とばかりに心の中で拍手喝采を贈ったのであるる
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