petit aqua vita
日頃のつぶやきやら、たまに小ネタやら…

2003年05月20日(火) 『ドイツvs日本』(2010年シュート小ネタ)

同点のままの、決勝トーナメント一回戦。
2-2の同点。後半のロスタイム突入。

(……この展開は………!)

ルディが3人のアイコンタクトに気づいたのは、以前に生で見たことがあるせいだ。神谷がしかける攻撃にくらべて、冷静に見つめればそれは結構分かりやすい。
…そして、展開さえ分かっていれば対処の仕様もある。

「ヴィリー!!」

中盤にいたヴィリーに声をかけ、3本指を示してみせる。ヴィリーがその意図を読みとった時、白石からの特大パントキックが蹴り出された。

「ゲイル!ガイル!ラストパスはタナカに出る!シュートコースを狭くしろ!!ハンス!後ろにはじいてでも構わない、タナカの左をクリアするんだ!!」

…果たして、ルディとヴィリーの読み通り、パントキックを受け取ったのは平松で、独逸の中盤を得意の脚ですりぬけてゆく。
そしてラストパス。
日本の10番、田仲のもとへ。

日本応援団の青い津波のような大歓声の中、田仲がシュート体制に入る。ガイルがボールを奪いに行き、ゲイルは田仲が打とうとするシュートコースを塞いだ。そしてその後ろにハンスが控える。

『あああああ!!!』

しかしこの選手が世界的にやっかいだと言われるのは、いくらシュートコースを塞いでいても、それらを考慮せずに吹き飛ばしてしまうバカ正直なパワーにある。
案の定、ガイルは吹き飛ばされ、ゲイルはシュートされたボールにかする事しかできない。そしてそれによって多少コースが変えられた為、ハンスは反応しきれなかった。
しかも、まだシュートは枠内に入っていた。

決まる―――!


…誰もがそう思った、その時。


まだ諦めていなかった男が、ひとり。
ルディ=エリック。独逸の至宝。

驚異的な運動能力を誇る彼は、日本ゴール前から一気に自陣ゴール前に戻ってきていた。ゴールへ向かうシュートを追い掛け、斜め後ろからスライディングタックルをしかける。

「UuuuuuuRaaaaaaaahh!!!!!」

それは、届くか、届かないか、ギリギリの距離。
…しかし、ルディは自らの足を届かせてみせた。そして、足の裏で確かに感じたのである。
田仲の打ったシュートが、ゴール枠を外れたことを。

一瞬後、ボールはゴールマウスを50センチほど外れて、ラインを割った。
挙がる悲鳴は青いスタンドから。
客に白で埋め尽くされたスタンドは一斉に吼えた。



…そして、ホイッスルが鳴る。

ルディはふう、とフィールドに転がって一息つくと、身軽に起きあがった。

「ルディ〜!!」
「よくクリアできたな、ルディ」
「向こうサン、ずいぶんと驚いたようだぜ」
「今ので流れはこっちに来たな」
「オイシイ場面もっていきやがって!!」
駆け寄るチームメイトの手荒な祝福を受けながら、ルディは笑う。

大胆に。獲物を見つけた獣のように、まさしくゲルマンの魂を持つ者の象徴のように。どこまでも傲慢で野蛮に、誇り高く。

「…さぁ、延長戦だ」

一同が頷く。

「ヴィリー、こうなれば温存はなしだ『右』を出す」
「何?!」
「本当はセミ・ファイナルあたりまで出したくなかったがな……。使おうと思った皇帝サマはイエローの累積で、次の試合からしか使い物にならないし」
ルディの視線が、ベンチでジャージを着たまま座ってぶすくれているカイゼルに向けられた。気づいて鋭い視線を送ってくるのを、ふふん、とせせら笑うようにあざけり返してみせる。
…真っ赤になってベンチから飛び出そうとしてカーン監督の鉄拳をくらったカイゼルの様子に、我慢ができなくなってヴィリーがとうとう吹き出した。
…それを合図に、全員が大笑いする。

良い雰囲気だ。ギリギリの試合の、ゾクゾクするような緊張感と、そして震えるような歓喜。…楽しくてたまらない。

ルディは、まずは休憩を、と、ベンチに向かった。
チームメイトもそれに続く。

「…なぁ」
「ああ?」
「勝ちに行くぞ」

ルディの言葉に、全員がニヤリと笑った。

「――当然」


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平 知嗣 [HOMEPAGE]

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