2003年09月27日(土) |
『−熱−』(ヒカ碁小ネタ。楊海×伊角) |
「…あ、目が覚めましたか?」
「…イスミくん…?」 「はい」
まだぼんやりとした様子の楊海に、伊角はふわりと微笑んだ。 楊海は辺りを見廻す。
「楊海さんが滞在してるホテルの部屋ですよ」 「ああ…そうか。仕事の後で君と会って……」
その後、どうも様子がおかしいので無理矢理ホテルの部屋に連れ帰り、ベッドに寝かせたらそのまま熱がぐっと上がって起きられなくなった、という。 伊角が慌ててフロントに連絡し、呼んでもらった医者の言う話では、「過労と、このところの寒暖の差が激しい気候に体がついていけなかったことが原因」…とのこと。 つまりは風邪だ。
「また、無理をして……徹夜続きだったそうですね?」 「一刻も早く終わらせて、君に会いに行きたかったんだ」 仕事での来日だから、滞在の時間は、限られてしまう。 「それで体をこわしていたら元も子もないでしょう?」 …やれやれ…と、伊角は軽くため息をつきながら楊海の額にはりついた髪をはらってやる。先程より下がったようではあるが、まだ、熱い。 伊角は立ち上がると、さっきまで楊海の額に乗せていてぬるくなったハンドタオルを洗面所で洗い、冷やしてやる。それから丁寧にたたみなおすと、ベッドに戻って、楊海の額に、そっと乗せた。 そのまま、滑らせるように頬にも触れる。
楊海はその感触に微笑んだ。 「伊角くんの手…冷たい」 伊角はその手をそのままにふふ、と微笑う。 「水を使ってたから」 頬に添えられた手をとり、ぎゅ、とつかまえた。 「きもちいい……」 「楊海さんの手が熱いんですよ」
幼子が親の手を欲するように、もう片方の手も伸びてきたので、伊角はその手も、水で冷たく冷やされた自分の手でそっとつかまえてやる。 すると、安心したように微笑む彼。 なんとなくその姿がかわいらしくて、つい、じっと見つめてしまう。 楊海も、伊角を見つめていた。 何かもの言いたげに。
(何………?)
首をかしげたその時に、握られた両の手に力がこめられ、引寄せられた。 伊角は逆らわず、そのまま楊海の上半身にのしかかるような体制になった。楊海に体重がかからぬように、少し、手に力がこもる。
ゆっくりと近づいてくる楊海の顔に、伊角は、自然に瞼を伏せた。
探るように触れられる唇。 自然に開かれた唇から、誘うように舌が滑り込む。 つい、怯えたように応じてしまう。 触れては、逃げて。 誘われれば、ほんの少し、応えて。 「………ん………」
鼻から呼吸はできる、けど。 息がくるしい………。
けれど、触れてくるそれを、拒めない………。
伊角の手を捕らえていた力が、ほんの少し緩められた時。 彼は、ゆっくりと、顔を引いた。 そして、そっと恋人の熱い頬に頬をすり寄せ、くちづけた。 楊海も、伊角の頬、鼻、顎、そして唇と……軽く触れるように唇でふれてゆく。 そしてもう一度……という風にわずかにまた手に力を入れられた時に、伊角はふ、と顔を離した。楊海の顔を、見つめながら。
「……こぉら…」 伊角はふわりと微笑む。 「病人が、何をやってるんですか……」 楊海も微笑む。
伊角はそっと楊海の手からそっと逃れ、楊海の熱でぬるくなったタオルをとりあげた。 離れてゆく彼に、楊海が目をすがめると、伊角はそっと、囁いた。 「タオルを冷やしてくるだけですよ…。ついでに、アイスノンも新しいのを持ってきますね」
だから、どこにもいかない。
熱にうなされるアナタ。 タオルといっしょにこの両の手も、水でひやして。 貴方を、癒してあげよう。
キモチイイデショ………?
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