2003年09月28日(日) |
『台風』(女の子ヒカル。オガヒカ) |
「うん……。そう。どうも台風、こっちに直撃するみたいでさ。JRも飛行機も止まってるし…。うん。だから、今日はこっちに泊るよ。…え?大丈夫、ちゃんと確保できたから」
駅の公衆電話で、ヒカルは自宅に電話をかけていた。 地方でのイベントに来たのは良いのだが、帰る頃になって、台風接近のため、交通手段の殆どが止まってしまったのである。
「じゃあ、台風やりすごして、JR動き出したら帰るようにするから。…あ、それと、この雨で、携帯濡らしちゃったからさ、携帯に電話してもつながらないから、覚えといて。……うん。…うん。………もう!大丈夫だってば!切るよ!!」 いささか乱暴に受話器を置いたヒカルだが、彼女の様子は、それほどの勢いはなかった。
「大丈夫……って、実は全然大丈夫じゃないんだよな〜」 心配するだろうから母親にはああ言ったけど、実は、今夜の宿の確保などできてない。
イベントが終わったのはお昼過ぎ。…そこから、「近くにおいしいラーメン屋さんがあるらしい」との情報につられて、より道したりついでに観光なんかしたのがまずかった。 …気がつけば、店の外は大雨、ぷらす強風。タクシーでとりあえず駅にきたものの、そのタクシーから駅までの短距離を走っただけで既にずぶぬれになってしまい、おかげでジーンズのポケットに入れていた携帯電話が昇天した。 とりあえず今夜泊るところを決めようと案内書に行ったのだが、この台風のせいで、どこも満室だという。
ヒカルは、ため息をつきながら外の雨を見つめた。 「やっぱ、今日は駅で泊りかなぁ〜」 こんな状況だから、同じように駅で泊る人もいるだろうし、そんなに注意もされないだろう。 とりあえず、この濡れた服だけでも着替えたい。…気持ち悪いし、ちょっと寒気もしてきた。
駅ビルのショッピングモールが閉まらないうちに着替えとタオルを買って……着替える場所は
「トイレでいっか」
ヒカルはひとりごちて、小さなボストンバッグを勢いよく肩にかつぎ直した。 …途端に手に伝わる、どしん、という振動。
「え?」
どうやらこの手応え、誰かにボストンバッグをぶつけてしまったらしい。しかも、結構勢いをつけたから、当った方は……結構、痛い、だろう。 おそるおそる振り向くと。 そこには、顎を押さえてしかめっ面をした長身の男が立っていた。
「……進藤…この俺の顎に遠心力パンチを食らわすとは、いい度胸だな…………」
「ええええ?!緒方さん??」
――そこには、今回のイベントのメインとして参加していた、緒方棋聖十段が立っていた。
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