2003年11月28日(金) |
『膝枕』(オガヒカ小ネタ。ヒカル17歳) |
「緒方さ〜ん、明日の公開大局解説の打ち合わせ――あれ」 芦原が、緒方の泊まる和室に顔を出すと、彼が目にしたのはここにいる筈のないヒカルの姿だった。 「どうしたの、進藤くん?」 「あはは……」 どう説明しようかと苦笑いするヒカルに芦原が歩み寄ると、彼は机の陰になって見えなかった目的の人物を見つけ、ヒカルの苦笑の訳を知った。
正座したヒカルの膝に頭を預けて、彼は寝息をたてて眠っていたのだ。 「寝てる?」 「寝てます。も〜ぐっすり」 確かに、ヒカルと芦原がこうして話していてもぴくりとも動かない。しかも、緒方の腕はしっかりとヒカルの腰を抱え込んだ状態で、ヒカルは動きたくとも動けない。 「昨日は結局朝方まで後援会の人と飲んでたらしいからなぁ……」 「徹夜したの?」 「らしいよ。ここに来る時も眠そうだったけど、それでも俺にセブンを運転させたくなくて、気力で起きて高速飛ばしてきたから」 「意地っぱり……」 やれやれ、とヒカルはため息をつきながら、ぽんぽん、と緒方の亜麻色の髪を叩いた。それでも緒方は起きようとしない。
「珍しいね」 「何が?」 「緒方さんって、かなり眠りが浅いんだよ。ほんの少しの物音で起きたり、人がいると熟睡できなかったり」 「へぇ。……でも、寝てるよ?」 「寝てるねぇ…。だから珍しいんだってば」 「よっぽど眠かったのかな…」 真剣に首をかしげるヒカルを、芦原はしげしげと見つめた。
「…何?」 「いや、別に明日の解説の打ち合わせは直前にざっとやっておけば問題ないからいいよ。…それにしても」 「ん?」 「進藤くん、ずっとそのままで、足、痛くない?」 ヒカルは苦笑した。 「痛いよ〜」 そう言いながら、ヒカルは動こうとはしなかった。
「……そっか」 「何が?」 芦原はふわりと笑うと、首を振る。 「何でもない。…けど、我慢できなくなったら無理しなくていいんだよ。君だって、明日のゼミの指導棋士なんだから」 「は〜い」
そっと芦原が立ち上がった時、ヒカルが大きな灰色の目で彼を見上げた。 「芦原さん」 「なに?」 「悪いけどさ、そこの座椅子の隣にあるひざ掛け毛布、緒方さんにかけてあげてよ」 ――さっきから、寒そうだったんだ。
ヒカルの言葉に、芦原はため息をついた。 「…わかったよ。進藤くん、君の肩にもかけてあげた方が良さそうだね」
「ありがとう」
ヒカルは、緒方に膝枕をしたまま、ふわりと微笑んだ。
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