petit aqua vita
日頃のつぶやきやら、たまに小ネタやら…

2004年01月16日(金) 『こだわり』(ヒカ碁小ネタ。ヒカル18歳)

木曜日、対局も終えて一息ついて。さぁ夕メシでも……という時に、意見がくいちがった。


「えええ〜〜っっ!オレ、醤油の方が良いよぉ」
「いーや、こういう寒い日には味噌だ」
「あっさりしたスープでさぁ、魚と鶏のダシがうまく混ざってて飲みやすいし、醤油の匂いが良いんだよ。背脂を落としたらこってりするけど、でもしつこくなくてスープ全部飲めるし」
「味噌の香りだって良いじゃないか!濃厚なスープにとけるまろやかな味噌の味!これが日本人の味ってモンだろう野菜もたくさん入れて、ニンニクもたっぷり。精がつくしあったまるぞ〜」
「これ以上精なんかつけてどうするのさ」
「…ここで言って良いのか?(ニヤリ)」
「セクハラオヤジ!」
「何なら味噌ラーメンに牛乳入れてやろうか?背が伸びるように」
「え〜、邪道だよー」
「何を言う。こうすることでより一層味がまろやかになってだなぁ…!」


ぎゃあぎゃあわあわあ。

日本棋院の廊下では、現在唯一の二冠を誇る緒方十段・王座と、既にタイトル戦のリーグ入りもいくつか果たした新進気鋭の若手、進藤四段による非常に大人げない言い争いが展開していた。
これだけ言い争うのなら別々に食べに行けよというところだが、そうする気はさらさらまったくない気配のいわゆるバカップルである。
白スーツと、金メッシュのツートーンカラーの髪。加えて有名人という、とんでもなく目立つ彼らではあったが、周囲の注目なんぞすっかりきっぱり無視して自分の意見を主張するマイペースなあたり、似たもの同志かもしれない。

対局を終えた他の棋士たちは緒方とヒカルの口論を聞きつけ、「今晩はラーメンでも食いにいくか」と誘い合ってみたり、「お前なら醤油と味噌とどっちにする?」と同じ内容で盛り上がってみたりしていた。
緒方とヒカルが仲良く喧嘩していても、別に気にもとめないのは高段者の手合いである木曜日ならではの光景であろう。(←要するに慣れた)



「醤油ラーメンだったら、麺はまっすぐだし、少し細めで醤油のスープとも相性が良いし、するする入るじゃないか!」
「味噌ラーメンのあの太麺の方が濃厚なスープとよくからんで絶妙な味なんだ!卵の入った適度なちぢれと喉ごしは最高なんだぞ!」

……両者、一歩も譲らず。

言いたいことを主張しまくって、ぜえはぁと肩で息をしながら対峙するふたりであった。



――そんな2人に関わろうなんて無謀な者はいないのだが。

「…あ、進藤。今帰りか?」

――どこにでも、場の雰囲気を読めない者はいる。

くるり、と振り向いたふたりの視線の先にいたのは、何も分かっていない伊角 慎一郎三段。いきなりの彼らの鋭い視線を浴びるはめになり、いささかたじろいでいた。


「……伊角さん」
「…ふ。丁度良い。おい、そこの」

「………え?」




「醤油ラーメンと味噌ラーメン、

  どっちが美味いと思う?!」






……何じゃそら、と社ならばツッコミ入れたであろうバカバカしい問いに、面くらいながらも真面目に答える伊角はどこまでも律儀だった。


「え……俺としては最近楊海さんと行った店の塩ラーメンの方が好きなんだけど………」


ヒカルたちからの反応はない。


「最近できた店みたいでさ。スープも澄んでいてきれいで、塩ダレに使う塩はモンゴルから輸入した岩塩を使ってるんだ。こってりもあっさりも両方あってさ。乗せてある卵は名古屋コーチンだし、麺も厳選した無農薬有機栽培された小麦粉とかん水を使ってて歯触りも喉ごしもよかったし、あそこ、熱々のつけダレをそえてつけ麺も食べられたんだ。楊海さんもすごく気に入ってて……」

楊海と行った折のことを思い出してか、伊角は緒方とヒカルの雰囲気の変貌に気づかなかった。


「ふうん……モンゴル直輸入の岩塩を使った塩ダレ……」
「ほう……つけ麺とは珍しいな………」



BGMはジョーズのテーマで。





「「オレ(俺)や緒方さん(進藤)も知らない店とは………」」




近寄るふたつの影。

「え?」


がし。



「「是非、案内してもらわんとな(ないとね)♪」」



にっこり。
にやり。



「え?」









ウサギ…もとい伊角は、見事両腕をとられ、さくさくとエレベーターに連行されていった。










そして、コトの一部始終を目撃してしまった冴木と芦原は。

思わず「ドナドナド〜ナ〜ド〜ナ〜〜」と心の中で二部合唱したのであった。


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平 知嗣 [HOMEPAGE]

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