2005年02月24日(木) |
『黄金(きん)色の湯気 3』(おひさしぶり〜) |
台所で仕上げられた今日の夕食は、梁特製の中華粥だった。 昨日から仕込んだというスープは黄金色に澄んでいて、米のひとつひとつがしっかりとそのスープを吸ってふっくらとなっている。具の鶏肉はほろほろと崩れるくらいに柔らかく煮込まれ、荒く刻まれたニラが彩りを添えている。 ふわりと湯気に乗ってくる香りはあたたかくて優しくて、思わずヒカルのお腹が鳴ってしまう。 「育ち盛りなんやし、しっかりおかわりしいや。おかずもたんと作ったあるから」 「は〜い」 ヒカルは梁の言葉に素直に返事をする。 「…よ〜し。んじゃコレで仕上げ〜♪」
梁は、しっかり熱したゴマ油に刻みネギを入れて焦がさぬように炒めたものを、出来上った中華粥の表面にさっとかけた。 香ばしい香りが、部屋の中いっぱいに広がって、梁は満足そうに頷く。そして鍋に蓋をし、こたつのある居間へと運んだ。
「おがやん、お粥できたし、そっち持って行くで〜」 「…おう」
おっとりと梁が声をかけると、緒方はじろり、と睨みながらも読んでいた新聞をたたんだ。 ヒカルも梁の後に続いてこたつに入った。 「…小龍包と珍珠丸子は?」 「今蒸してるからもちっと待ち。…あ、茉莉花茶はおがやんが煎れてな」 「客に煎れさせるかオマエ」 「おがやんのが煎れるの上手いんやし、ええやん。俺が煎れて文句言われるのはかなん」 「ったく面倒な……煎れてやる代わりに、「茉莉龍珠」使うぞ」 「うわ、さり気にいっちばん高い葉っぱ使う気か?!」 「ウルサイ。客に一番良いものを出してもてなすのが客商売の礼儀だろうが」
そうして緒方が茶葉を取りにコタツから出るのを確認してから、ヒカルは前々から疑問に思っていた事を口にした。
「…ねぇ。なんで「おがやん」なの?」
深皿に中華粥を盛り付け、切った油条をぱらつかせながら、梁はに〜っこり、と笑った。 言わずともわかる、「よくぞ聞いてくれましたvv」…という表情で。
「やっぱ気になる?」 「うん。最初は梁さんが関西弁だからかな〜、と思ったけど、何か違うっぽい感じがするし……」 ヒカルの言葉に、梁はうんうん、と楽しそうに頷く。
「あんな?確かに関西弁では、「くん」や「さん」の代わりに「やん」を使うことがあるけど…おがやんの場合は違うねん」 「うん」
「珠英」
ヒカルが身を乗り出した時、梁の背後には黒いオーラを見事に出現させた緒方が聳え立っていた。
「余計な事を喋るな」 「うわ〜、そのメンチきり、いまだに健在かいな」 「やかましい」
緒方はゴッ、と梁の後頭部に膝蹴りをかます。
「痛った〜」 「だ、大丈夫?梁さん」
梁は緒方に蹴られた後頭部をさすりながら、心配するヒカルに苦笑してみせた。
「だいじょぶだいじょぶ。コレはツッコミの範疇やから。でもごめんな〜?この話はこれ以上はできひんみたいやわ」 「オイ、飯!」 「はいはい」 せかす緒方に苦笑しながら、梁は皿に中華粥を盛り付け、緒方に渡したのだった。
ゆらゆらと揺れるスープの湯気と香りが、あたたかい食卓の上で踊りだす。
「ほな、食べよか」 「いただきま〜す♪」
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