子供のころから見る夢のことである。 今の家ではなくて、5年前まで住んでいた家が必ず基点である。 その家は昭和6年築の古い家屋であった。 そのころの建築らしく、押入れが多かった。 そして、先日書いた通り、押入れは憩いの場所であった。
夢でたまにその押入れが登場した。 夢に出てくる押入れは1階の、いつも布団を敷いて眠る部屋の布団が納められるべき押入れであった。 布団が納められるので、きわめて潜り込む頻度の高い押入れであった。 匂いといい、弾力といい、子供が潜むのにうってつけだったのだ。
しかし夢の中で出てくる押入れにはその奥の壁にもう一つ襖があった。 そして、夢の中では必ずその襖を開けて「向こう」の世界へ遊びに行った。 その襖を開けて「向こう」へ出ると、幾部屋もある旅館のような家だった。 部屋のほとんどは無人でかびた匂いがしており、それでも子供にとっては夢の中とはいえ、楽しい遊び場であった。 その「向こう」にも何故か知っている「おばさん」がいて、必ず《入ってはいけない部屋》があった。 それはお客だか下宿だかわからないけれども、誰かが住んでいる部屋だったのだ。 そして、そういう部屋は必ずと言っていいほど人の生息する気配があったので、言われずともそういう部屋はわかったので決して入ることはなかった。 他の空いている部屋(ほとんどが空いていた)は、なぜだかわからないけれど、夢の中でさえはっきりと覚えているほど「おいでおいで」と呼んでいるような部屋だった。どの部屋もほとんど同じ造りで、丁度田舎の古旅館のようなたたずまいだったような記憶がある。 細かいところは覚えていないが、何故か暗くて長い廊下だけは鮮明に覚えている。 何をするでもなく、あちこち歩いて覗きまわって夢は終わる。 しかし、少なくとも同じ舞台の夢を幼少の頃から30回以上は見ている。 今でもその廊下をぼんやりと思い浮かべることが出来るぐらいなのだ。
ひょっとして、これは自分の前世を見ているんじゃないかと思うことがある。何故か懐かしい想いで夢見ているのが、子供のころから変わらないからである。
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