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■ ピンプ(B+)/アイスバーグ・スリム
あー、面白かった!っていうのが正直で端的な感想。自伝なので、ストーリーがどうこうってことは言えないのだけれど、桁外れに波乱万丈の人生を早送りで見ている感じで、実に面白かった。
IQが175もあって勉強もできたスリムが、なぜピンプ(ぽん引き)になることにこだわったのだろう?そこには白人社会における黒人差別の問題がある。黒人が白人の社会の中で白人に認められる生活を送るためには、お金しかないのだ。それにしても、何度刑務所に送られてもピンプにこだわるってのは、本当に懲りないやつだ。
娼婦をこき使い、自分のためにお金を稼がせる手段はまさに冷酷で、ゆえに「アイスバーグ(氷山)」という名前がついた。娼婦を自分のところに繋ぎとめておくため、あらゆる手段を用い、不要になれば捨てるわけだが、逆になぜ、娼婦たちはピンプについて行くのだろう?ピンプは娼婦のための娼夫なのだ。
ここには当然男女の駆け引きがあるのだけれど、私には娼婦たちの気持ちがわからなくもない。自分を必要としている男、自分を愛してくれる男のために、女はどんなことでもできるということだ。売春がいいとはけして言わないが、彼女たちの孤独や寂しさを考えると、必ず自分を守ってくれるピンプがいることは、たとえどんなことをしていようが、心の平安は得られるのだ。黙っていてもわかるなんてのは嘘。口先だけでも信じられれば、女は何だってできる。
前に書いたように、スラング連発、隠語だらけのこの小説、最初はうわあ!と思ったけれど、テンポもリズミカルで淀みがない。エディー・マーフィーのしゃべりみたいな小説だ。まさに私はエディーを思い描いて読んでいたのだけれど。
刑務所で悲惨な目にあっても、アイスバーグの明るさ、前向きさは失われない。困難な状況でも、けして諦めず、それを切り抜ける方法を考え出す。ぽん引きという仕事や、ドラッグ売買など、それはいいとは言えないが、生きていく姿勢は気持ちがいい。
30年ほどピンプをやって、その後はかたぎになり、作家として身を立てたアイスバーグだが、最後はこう締めくくる。
「そろそろ家族が起き出すころだ。暖房をつけておかなきゃ。朝の寒さの中で目覚めさせるわけにはいかないもんな。あったかハートのアイスバーグっていうのは、どんなもんだい?」
冷酷なアイスバーグも、本物の愛に出会って、あったかハートになったらしい。それでこそ書けた自伝だろうと思う。冷酷であるとしながらも、どこかにハートが感じられる。
2002年01月29日(火)
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