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実話かどうかは調べていけば分かるだろう - 2003年06月07日(土) 沢井鯨と言う作家がいる。デビュー作(?)はPrisoner In Phnum Penh(略してP.I.P)と言う本で、第二作はDice of Die(略してD.O.D)と言う本である。前者は、自身がでっち上げでプノンペンで投獄された経験をもとに書いた本で、二作目はマニラで同様に嵌められた日本人達を取材して書き上げたミステリー小説だそうである。 で、本日の主役は沢井鯨ではなくて、二作目D.O.Dに登場する人物のモデル(になっているのかは分からないが)の人である。この人、昨日終電終わった後に桜木町から乗ったタクシーの運転手なのだが、彼は沢井鯨から取材を受けたことがあるらしい。 昨夜、飲んで終電を逸した私は、地下鉄のある交差点からタクシーに乗って家に帰った。 「すいません、江田方面」 と言うと、運ちゃんは江田がよく分からないと言う表情をして、 「港北方面でいいんですか?」 と言ってきた。第三京浜の港北ICを降りれば分かるので、それでお願いしますと言うと 「いやー、タクシーの運転手は久し振りに始めたんで、良く分からなくて。4年間休んでたんですけど、横浜も変わっちゃいましたね」 と言ってきた。そうですね、確かに港北の辺りはガラリと変わりましたね、などと話していたのだが、この人話好きらしく、結構話しかけてくる。酒は入っていたが意識のハッキリしていた私は話をし続けた。4年間は違う仕事してたんですか?と聞くと、マニラにいたと言う。経緯はこうだ。 タクシーの運転手稼業を続けてきたこの人は、4年前に10日間の予定でフィリピンに旅行に行ったらしい。予定通り帰るとき、出国審査で賄賂要求の難癖を付けられた。入国スタンプが押されていないと言う。入国スタンプはしっかり押されているので「押されてるだろうが」と突っ込むと、これは偽のスタンプだと始まったようだ。揉めているうちに別室に連れて行かれて、ホテルで待機するように言われたようだ。それでホテルに戻され、数日間音沙汰なしで過ごしたらしい。 数日後、再び出国を試みると、今度は滞在許可期間が過ぎていると言うことになり、これで逮捕。大使館に掛け合ったものの、マニラでは不法に日本からやってくる人間が多いからか、それらと同一視されて助けてくれず、禁固刑1年を食らったようだ。 1年後、出獄したはいいものの、既に金も何も無い状態に陥り、大使館の相手のしてくれなさは更に磨きがかかり、日本人とさえ認定されなくなった(パスポートも無くなっていたらしい)。全く助けてくれる人間がいない状態に陥った。日本の家族と話をしようにも、家族と連絡が取れず、また1年も全く音信不通だったことから恐らくもう死んでいると思われたのか、向こうからのアプローチも無かったような状況のようでもある。そこから3年、物乞い生活で何とか死を免れて生活を続けたそうだ。 3年経ったある日、最初の出国のスタンプ関連で揉めた警官に物乞い生活が見つかり、これで馬鹿にされたのを機にぶち切れ。もともと空手をしていただけあって、10人いた相手の一人の目を潰すくらいの切れぶりだったようだが、多勢に無勢で結局ボコボコにされ、これで生死を彷徨う。幸い助けの手が出て医者にはかかったものの、このままでは死んでしまうと言う訳で再び大使館に行き、相手にされずとも門柱にへばりついて助けを求めたようだ。 外務官僚はこの際一切無視したようだが、公安関係でマニラ大使館に出向で来ていた日本の警察関係者がこの人に気付き、色々調べ始めてくれたようである。これで潔白がようやく証明され、日本の家族にも連絡が取れ、金を工面してパスポートと航空券を購入し、ようやく「強制送還」と言う名目で帰国を果たしたらしい。 帰国後、外務省の偉いさんから「すみませんした」の電話が一本入っただけでこの問題は片付けられてしまったようだが、本人は納得が行かない。しかし、今回金を貸してくれたりした義理のお兄さんがどっかの省庁の結構偉いさんで、ここで国を相手に訴訟を起こしたらその地位が一気に揺らぐことから起訴を諦め、結局タクシーの運転手をまた再開したようである。 「もうどうすることも出来ないんで、本でも書こうかと思っているんですよ。」 と言っていた。 マニラは日本から逃げてきた人たちが大勢いて、大使館もこのような人間達を殆ど「不可触日本人」的に扱っているようなので、本当に言われ無き罪で酷い目に遭っている人間を助けることは殆ど無いようである。また、このような人間に助けの手を差し伸べて、金を渡す人間も殆どいないようだ。理由は「こういう日本人は帰る気は全く無く、金貰ったらすぐに覚醒剤に使ってしまう」と言うことが定式化しており(実際そうらしい)、容易に助けの手が入らないのが現状のようだ。 「全く、今考えたらスタンプでいちゃもん付いたときに金を払えばよかった」 と言っていたが、それは確かにそうだろう。 役人の特に腐っている国に一人旅で行くのは、実はかなり危ない。 -
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