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観劇三昧その二 - 2003年10月13日(月)

横浜日劇の概要は、写真を含めてこのページをチェックしてもらうと良いだろう↓

神奈川新聞のあるページ

横浜日劇は上記ページにあるとおり、神奈川県内で営業している中で最も古い映画館で、内装は替わったというものの、その内装たるや純然たる映画館と言う感じで、最近シネマコンプレックスと言う形で新しいビルだの商業施設に入っている映画館とは全く異なっている。横浜の中心部には、このような古めかしい映画館がまだいくつか残っているが、スクリーンのある舞台がタイル張りだったり、トイレに行く際は客席の横を通っていくなどの構造は、正に見たことの無い造りである。現在、横浜日劇は横浜日劇を拠点に市内に映画館6館を抱えている。私は以前、横浜日劇の向かいにあるシネマジャック(横浜日劇系列)で映画を見た記憶がある。私の感知している横浜日劇は、どちらかと言うと洋画専門館で、洋画をそれ程好んでみる方でない私は、今まで入ったことが無かった。ただ、この映画館の二階に濱マイクの事務所セットがそのまま残っていることは、当然以前から知っていた。

さて、濱マイクシリーズについてであるが、私が濱マイクシリーズを知ることになったのは学生時代である。暗い浪人時代、私はよくビデオを借りて夜な夜な映画を観ると言う暗い息抜きをしていたのだが、その頃から邦画を観始めた。それまでは一般の人々同様、「邦画なんて」と言う姿勢を取って来たが、観てみると「今までの自分は、単なる邦画食わず嫌いだった」と言うことを認識し始め、今では

「一番好きな映画は邦画かな」

と言う風になった。これに同意する人は殆ど会ったことが無いが、それは邦画を観ると言う人が殆どいなかったからだろう。邦画に対して消極的なイメージしか持っていなかったのは私も同じだし、趣味を押し付けるのも趣味じゃないし、そもそも相手が殆ど興味を感じていないのが分かってしまう時点で、話にならんから熱心に勧めるなんてことは殆どしたことが無かった。

濱マイクシリーズを好きになった理由は、主演が永瀬正敏であること、監督が林海象であること、舞台が横浜であること、の3点であろうか。

学生時代、休みのたびに東南アジアを旅行していた私だが、林監督の当時の作品はアジアからの流入者を描いたものが多く、そんな私の趣向に合ったようである。私が最も好きな俳優である永瀬正敏が出ていたのも当然大きい。と言うより、手に取ったのは林監督-永瀬正敏と言うコンビが作っていたからだろうか。舞台が横浜であるというのは、都内の学校に通い続けた私にとってはあまり必然性は無いが、学校を終えて結局横浜に就職した私は、横浜に潜在的に愛着を持っていた。特に、全くおしゃれな横浜からはかけ離れた、言ってみれば本当に「港町ヨコハマ」が香る歓楽街である京急沿線の日の出町から黄金町の雰囲気は、正に魅力が満載と言う感じだった。

濱マイクシリーズは、横浜日劇の2階を改造して作った部屋を事務所にして、私立探偵稼業をしている地元の元不良・濱マイクが主人公の映画である。舞台は横浜黄金町一帯であり、近所の酒屋などがそのまま使われている。マイクは子供の頃母親に捨てられ、横浜日劇の福寿祁久雄に引き取られて育ったという経緯を持っている。因みに福寿祁久雄は実在の横浜日劇支配人である。その縁で横浜日劇の二階に事務所を構えているということである。福寿祁久雄は映画には出てこないが、製作には参加しているらしい。

その濱マイクシリーズを、何とその映画の舞台である横浜日劇で観られるのである。これを逃す訳が無い。とそれはだいぶ上で書いたが、そんな訳で私にとっては「念願叶ったり」と言う心境だった。

濱マイクシリーズ三部作は、必ず最初に依頼人がマイクの事務所を訪れるというシーンから始まる。カメラワークは、いつも横浜日劇の全景が入るアングルである。その場所で足を止めて、横浜日劇を観る人が、今日は多い。ファンだろう。

依頼人は二階のマイクの事務所に向かおうとするが、かならずもぎりのおばちゃんに「ちょっとあんた、映画館に入るならそこで入場券買ってもらわないと」と言って止められる。依頼人は「私は映画を見に来たんじゃなくて、二階の探偵事務所に用がある」と言うが、「映画を見なくても映画館に入るなら、入場券を買わねばならない」と言うおばちゃんのロジックの前に敗れ、映画館入口にある味のある券売り場で券を買い、おばちゃんに券をもぎってもらって二階のマイクの事務所に行く。

マイクの事務所に入った依頼人はマイクに仕事を依頼。その後、マイクは階下に降りておばちゃんと軽く話した後で、劇場前に常に置いてある愛車、メトロポリタンに乗り込んで劇場を後にする。必ず最初に前進して、右に切り返し、そしてハンドルを左にして走り去る。そのとき、オープニングテーマのサビが流れている。

と言うのを、彼女に劇場の前で説明。メトロポリタンも今日は特別の日と言うことで置いてある。

「この車がまずあそこまでキュッと出て、それでこっちに切り替えして、左折してこの道をブーンと走っていくんだ。」

メトロポリタンの前で記念撮影している女性ファンもいる。

劇場内に入ると、特別グッズと言うことでSwoopと言う雑誌を貰う。これは横浜ローカルのダブロイド雑誌と言う感じで、この号は全ページにわたって濱マイクが特集されている。中々クールな紙面だが、中身の記事も中々興味深かった。

映画館内では、まだ「わが人生最悪の時」を上映中だった。私と彼女は場内に入る。予想はしていたものの、座席はほぼ満席だった。やはり固定ファンが多いのか。

DVDを3作とも持っていて、何度もこの3作を見た私には、入った途端に台湾マフィアの兄弟と兄の嫁役の南果歩が出ているシーンを見て「ああ、もうこんな場面か」と言う風に思う。私の記憶どおり、ちょっとしたらクライマックスがやってきた。一作目から見られれば、と思ったが。

休憩時間、私はマイクの事務所を見学する長い列に加わった。この事務所は今度撤去されてしまう。これが最後のチャンスである。先ほど、カメラ機能を持ったクリエを持って走ってきたのだが、落としてしまって買ったばかりのクリエの首がグラグラしてしまっているのがいささかブルーだが、とにかく映画で依頼人が上っていく、マイクが駆け下りてくる階段を上り、看板で仕切られた事務所に入っていく。

事務所内はマイクの机や、今は亡き前横浜市長高秀秀信から表彰された表彰状なども掲げられている(これは三作目にチラッと出てくる)。横浜日劇に合うレトロな小道具や、窓から見える客席など、まさに映画で見たとおりだ。10人で3分ずつの見学時間の間に、ファンは必死に記録をカメラに残そうとしている。注意書きに「物に触れないで下さい」などとあったが「写真やビデオはご自由にお撮り下さい」と書いてある。人数を区切って若干の説明を加えていた初老の男性がいるのだが、恐らくあの人が支配人の福寿氏であったと思う。質問とかすれば良かった…。

2作目、「遥かな時代の階段を」が始まるので、私と彼女は席に戻った。

2作目、「遥かな時代の階段を」は、一作目では殆ど触れられなかったマイクの生い立ちやそれを取り巻くエピソードが物語の中心となる。2作目では、川の利権争いにマイクは巻き込まれるが、そこで父親と母親に出会うことになる。父親は劇中で「白い男」と呼ばれている川を支配する闇のボスで、母親は黄金劇場(実在する)に出ていたストリッパーである。岡田英次・鰐淵晴子と言う豪華キャストが両親だ。

川と言うのは、黄金町にも流れていて、私の会社の前に河口を開いている大岡川である。川はかつてから麻薬ルート、犯罪者の逃亡ルート、売春婦の流通ルートなど、数々のアングラな取引に使われている、言ってみれば闇の宝の川である。川の利権は「白い男」が握っており、川には地元のヤクザや警察も手が出せない。大岡川沿いの商店なども全て「白い男」の傘下にいて、手出しするものは容赦なく殺されると言う世界だ。

「白い男」は戸籍が無く、戦後復員してきて黄金町に流れ着き、そこで闇市を仕切るまでになった。川の利権を握っていたヤクザをたった一人で全滅させ、GHQと取引をして川の利権を得、それ以来川に君臨して来たと言う設定だ。

当然、この白い男と言うのは林海象の創作であると思うが、モデルとも言えるべき人物がいたらしい。戦後の野毛闇市を仕切ったテキヤの大将で、そのことは劇場に入った際に貰ったSwoopに詳しく書いてある。桜木町一帯を仕切った肥後組組長・肥後盛造と言う人物である。

米軍に接収されまくった横浜の中で、唯一接収されなかったのが、今も飲み屋街が広がって私も度々飲みに行く野毛である。ここで闇市が形成され、それを仕切ったのが肥後盛造だったそうだ。肥後組は博打の鶴岡組と「血で血を洗う」抗争に明け暮れたと言う血腥い極道そのものの世界を生きてきた完全なヤクザある反面、カタギ衆に手を出すことはせず、特に組長肥後盛造はしょっちゅうビシッとした身なりで野毛を歩き、問題を自ら解決する人望家だったようだ。この辺は一般人と全くかかわりを持たない「白い男」とは異なる。現在も肥後組は横浜の露天商を仕切っているらしい。

2作目は私もかなり好きな映画である。大岡川が物語の中核を占めるので、風景もあの界隈を良く映している。第一作目はモノクロだったが、二作目からはカラーになる。黄金町だけじゃなく、山手の方も撮影されたり、一応幅広い横浜が描かれる。

白い男に追われるマイクは、横浜中を逃げ惑うが、最終的には白い男(父親)と対峙し、結局生還する。白い男は死に、マイクの宿敵である帰化日本人ヤクザである神野(佐野史郎)に川の利権は渡るという結末になるものの、とりあえず母親と茜の初の対面もあったりと、中々微笑ましい。

2作目が終わり、次はいよいよ最終の「罠」である。私は売店でビールを買い、さらに写真集まで買ってしまった。館内に戻ると、館内からマイクの事務所をカメラで撮っている人とかもいる。Maiku Hama Detective Officeと、モロローマ字で「Maiku」と書いているが、これはわざとそうしているような気がする。何しろ、濱マイクは本名と言う設定なのである。日本人の普通の名前、のように扱っている気がする。

3作目、「罠」。これは横浜黄金町の露出度は低下する。サイコ系のノリになる映画で、永瀬正敏が二役で出ていたり、悪役である山口智子の比較的艶かしいシーンが出てきたり、マイクに真面目な恋人が出来たりと、今までの流れからすると若干趣が異なる。また、二作目で敵だった杉本哲太は、今度は麿赤児扮する中山刑事の部下としてマイクを支える役回りに転じ、さらに一作目で敵として、二作目で川の利権を手にした黒狗会組長の神野役をしていた佐野史郎は、マイクの彼女がボランティアをしている教会の神父役で出てくる。そのまま「杉本」と言う登場人物役で冷酷な悪役を演じていた杉本哲太と、これまた冷酷なヤクザを演じていた佐野史郎が、180度転回した役回りを演じているのも面白いところだろう。

3作目で比較的目立つのは、ナンチャンこと南原清隆が演じる白タク運転手星野、それから師匠役で劇中の役目もそのまま「宍戸錠」と言う宍戸錠である。特にナンチャンは今作では大活躍で、私が一番好きな、

「物凄く困ってる時だけ俺に電話してくるのやめてくれない」

と、愛車を運転しながら無気力にマイクに言うセリフは、喋り方も間の取り方も、かなり上手い。看護婦の変装をしたナンチャンも、妙に肩幅が広くて笑える。

南原清隆の演じる星野は、普段は白タクの運転手をしているが、マイクの要請で収集した情報をマイクに流している。マイクはこの情報を探偵稼業に使うわけであるが、星野の人を食ったキャラクターは、濱マイクシリーズでは重要な位置を占めている。マイクは私立探偵を一人でやっているとは言え、実質上は星野とコンビを組んでいると言っても良いかも知れない。林海象が何故ナンチャンに目を付けたのかは不明だが、私は当たり役だと思っている。

ナンチャンを重要人物と位置づけられているのは、誰がこの映画を見ても明らかに分かると思うが、Swoopにも横浜で最も長く個人タクシーをやっているタクシー運転手が取り上げられているのが、中々嬉しい。

三作目までが終わり、横浜日劇の一日も終わった。席を立って私も映画館を出たが、今日はやはり濱マイクシリーズのファンが集まる日ゆえ、横浜日劇の外観を時折振り返りながら帰る人ばかりだった。普段は映画館を振り返ることなどしないだろうが、今日だけはいつもと違う。私にしても、車に行くまで3度ほど振り返ってしまった。


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