官憲の手がのびている。国外逃亡の日は近い。
もういくばくの余裕もない。
今日は、爪切りとソーイングセットを買った。
もちろん逃亡のためだ。
そして今日、さっかは国際学生証(ISIC)を発行した。
いろいろ役に立つ。
緊急逃亡の前にはやはり、落ち着きが必要とされるのである。
国際学生証は、大学の生協などで取得出来る。
学生証のコピーと証明写真があれば、5分で完成するらしい。
ツルツルの固いカードのはずだから、機械で作るのかもしれない。
さっかは四枚撮りの写真を撮って、生協へ乗り込んだ。
おねーさん 「写真はありますか」
さっか 「あの〜、まだ切ってないんですけど」
おねーさん 「大丈夫ですよ、こちらで切りますから」
どこか得意げで、自信満々のおねーさん。
証明写真カッターでもあるんだろう。
写真を出して、右から2番目を使ってくれとお願いする。
わりと恥ずかしい。
おねーさんは定規を取り出した。
……定規?
さらにボールペンを取り出して、写真を上から押さえつける。
おねーさん 「3センチ…… いち、に、さん…… ここか……」
さっか 「……」
おねーさん 「あ、ハサミ、ハサミ……」
さっか 「……」
おねーさん 「(ジョキ)」
ローーーテクだった。
次におねーさんは、私の生年月日やパスポートネームを機械に入力。
カタカタカタカタ…
何かすごく小さいものが出てくる。
シールだ。さっかの生年月日やパスポートネームが書いてある。
おねーさんはそれを、
丁寧に、透明な台紙にはりつけていった。
手作業? おねーさんを信じるしかないらしい?
続いておねーさんは、「ISICの素」を取り出した。
固い磁気カード、本体である。
それをおねーさんは、歪んだ雑誌の束の上にぞんざいに置いた。
そこに手作業で、切った写真と、さっき台紙に並べたシールを、
手ではりつけてゆく。
写真の表にさわってる。
雑誌の束は歪んでる。
おねーさん、ちょっと失敗。
おねーさん焦る。
おねーさんはがす。
おねーさんリベンジ!!
そのおねーさんの後ろを、他の店員が横切る。
おねーさん、押されて揺れる!!
おねーさん負けない!
「ISICの素」に全てを貼り終えたおねーさんは、
どこか満足そうに、無言で私に微笑みかけた。
笑みを返せと?
この後、おねーさんは店の奥へと姿を消し、
ラミネーターで表面をつるつるに加工して戻ってくる……
と、私は思っていた。
が。……おねーさんはフィルムのはくり紙をはがした。
てめぇ、ナチュラル嗜好もいいかげんにしろ。
心は店内の棚という棚を次々となぎ倒す。
おねーさんは私がじーっと見ている中、
やはり歪んだ雑誌の束の上で、このフィルムをカードに貼った。
ぺたりと押さえ、真ん中から放射状に空気をぬいて、
何度も手でおさえるおねーさん。
写真のまわりは爪でぎゅうぎゅう空気をぬいて、
何度も何度も押さえつける。
曲がった雑誌の上で、
私の写真に全体重を乗せるおねーさん。
本人の見ている前で、そんな。
おねーさん 「ふ〜っ」
ため息つくな。
おねーさん 「できました」
そうみたいね。
おねーさん 「えっと、はい、これです。できました」
わりと興奮してる?
おねーさん 「あっ、そうだ」
どうした、おねーさん。
おねーさん 「1400円いただきます」
!!>_<;
See you next after school ...