ブチに助けられたことがある。
アパートは一階で、ある平日、大きくドアと窓を全開にして 掃除をしていた。
世田谷区のごちゃごちゃした住宅街の奥まった路地にあるアパートで、 表の通りからは 死角になる 今から考えれば 物騒なアパートだった。
隣の女性の部屋に 深夜、男が入ってきて、窓側から助けを求められたこともある。
裏が 某企業の独身男性寮で、深夜、門限過ぎた酔っぱらい達が うちのアパートの廊下の壁を乗り越えて 行くことも、しょっちゅうだった。
掃除を終えて、着替えもしてしまった。
ふと足元でブチが、唸った。
穏和な猫なので めったに唸らない。 「?」とブチの見ている先をたどったら、玄関のドアのあたり。
隙間から 男がこっちをのぞいていた。
ドアを閉めていなかった!!と気が付き
はじかれるように、私は突進し、ドアをバタン!と閉め、 ガチャリと鍵をかけて 「どなたですか???」と怒鳴った。
「し、し、しんぶんやです・・・」気持ちの悪い声だった。
私「A新聞なら三日前に払ってますけど?」
その後、しばらく無言で、男は、やがて立ち去って行った。
男を見つけたとき、突進したのが、幸いだったのだろう。
躊躇したり、後ずさったら、男は反射的にこっちへ向かってきただろう。
今、考えれば、うら若き人妻の危機だった。
大都会の片隅で そこで私の人生が終わっていたかも知れない。
ブチが唸ったのは、長い猫生で 後にも先にも、その時だけだったと思う。
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