東京にいた頃の話。
結婚して 翌年に もらった猫は、白黒のブチのメスで 呼べば返事をする賢い子だった。
ある日、ブチが帰って来なかった。
でも呼べば、どこかで返事がする。
遠い遠いどこかで返事がする。
それが空の上の方から、聞こえて来ると気が付いたのは いなくなって 2日も過ぎた頃。
アパートの階段を登って上の方で呼んでみると、やっぱり上の方から返事がする。
よくよく目を凝らしてみたら、 隣家の敷地の大木のかなり上の方で 降りられなくなっていたのだ。
どこかの猫に追いかけられたのだろうね。
夫が帰宅したのは深夜で、
それから隣家に訳を話して 庭に入れて貰った。
隣家のご主人は、パジャマ姿で 迷惑そうに 目をこすりながら、それでも梯子を貸してくれた。
夫は、アパートの2階以上も高さのある木に登り、 激しく指をかまれながら、ブチを下へ放り投げた。
ブチは、フラフラと自分で窓から 家に戻ってきて、 長いこと眠り続けた。
夫の指には、爪に穴があくほどの傷が残り、その後 数年間消えなかった。
ブチは、19歳まで生きた。
最後に逝く時まで、「ブチ!」と呼んだら かすかな声で 返事をしてくれた。
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