+女 MEIKI 息+
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タクシーのラジオで人生相談の番組をやっていた。 ある主婦が思いつめた口調で、このところ溜め込んだ胸の内を番組司会者に向けて延々と打ち明けている。司会者も重い口調を真似とても親身になって話を促すがそれはより番組を面白くするためだけで、決してその主婦に同情している訳ではない。夫に愛人が出来てしまったが、彼女は離婚したくないのだと言っている。愛人の方から勝手に消えうせてくれることを願っているが、夫の心をどうやってまた自分に向ければいいのか判らない、と。 あたしもタクシーの運転手もお互い一言も口をきかない。おしゃべりな運転手も居るが、それも話をしない運転手となんら変りがないのではないかと思う。みんな他人のプライバシーを上の空で聞く。同情も無ければ親身の気持ちもない。ラジオから流れている相談者の主婦も相手の気持ちも考えずに夫との仲を修復することだけを考えているようだ。人に相談をもちかける時は、色々なシュミレーションを組んで悩んだ挙句なのだろうけれど、そこに相手の気持ちを考慮することは排除してしまっているようだ。切羽詰った故に相手のことを考えられないのと違う気がする。自分の痛みだけを相手に理解してもらおうとした時に、それはちゃんと思惑通りに伝わるものでもないだろうに。そう思うあたしは、今のところなんの悩みもなく、同調するものを持たないせいなのだろうか。
髪を切った。 この時期、暑いのでいつも結わえていた。美容室で髪を洗ってもらい櫛で梳いてもらうと腰の辺りまで長くなっていた。初めて今日あたしに会った人は、この切った髪型を見ても長い髪と思うのだろう。肩で切りそろえるとまるで頭が軽く感じる。半日、美容室に居て少し疲れた。電車も車も、そして店の中もエアコンが効いていたせいか身体がダルイ。 家に帰るとすぐさま裸になって、そのまま真っ先に浴槽にお湯をざあざあとほとばしらせた。水蒸気がゆっくりと小さな鏡を曇らせ、あたしの顔は見えなくなった。溜息をつき、濛々と湯気が立ち昇る浴槽の中に身を沈めた。なにか面倒なことがあると、あたしはお湯のなかに潜り、髪を黒い睡蓮のように浮かべる。思い出すのは楽しかったあれやこれや、そして甘美な醜態までも。これからのあたしの睡蓮も、綺麗に咲くことだと思った。
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