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2001年11月26日(月) 女の腹に棲む悪魔


 ちっ、マナーモードにし忘れてた。

 金曜の夜10時過ぎ、携帯の着信音が鳴る。アドレスメモに加えてない人からを判別する着信音。

 こんな時間に誰からだい?

 昼間からのた打ち回る程の生理痛に苦しんで、鎮痛剤を食べながら暴れる腹痛と木槌を打って欲しいほどの腰痛が遠のくのを待っている身体が、2回のコール音を聞く。
 カーペットに寝転んだまま、充電器で立っている携帯まで這って進み着信履歴を確認。

 覚えの無い番号・・・間違いか。

 充電器に挿して、またゴロゴロゴロ。と、そこへまたコール音。ああ、また消音し忘れた。
 そして、今回も呼び出し音は2回で切れた。合図なのか?


 もし、その時に貴方が一人で居るのなら電話を下さい。話はしなくても良いの。コールを返してくれるだけでも良いの。どこかで少しだけでも繋がっていたいから。

 貴方の傍に奥様が居なければ、どうぞ電話をかけ直して。今夜は一晩中、貴方からの電話を待ってみます。

 今から電車に乗るから、あと30分で駅に着くわ。車で迎えに来てね。

 犯人は二人連れ、今しがた例の店に入って行った。これから乗り込むから現地で落ち合おう。

 君の部屋の前まで迎えに来たよ。早く出ておいでよ、これからドライブに行こう。


 などと、色々と考えて遊んでみた。すると、そこへまたコール音。今度は2回で鳴り止まない。「はいはい、アナタのおかけないなった電話番号は間違いです。も一度確かめてからかけ直してね」とつぶやきながら5回まで鳴るのを聞く。

 今度こそ消音マナーモードにしておかなきゃ。弄っている間にかかってきたら出たくなくとも勝手に出てしまうご丁寧なボタンフリーの携帯なので、サッサと設定。

 あれ?留守電が入ってる。

 「もしもーし、じゅんこさん?俺。駅前のドトールで待ってる。来るまで待ってるから。寒いし、気を付けてね。待ってるよー。」


 せっかくの金曜だってな意気込みで、今夜は会うつもりでいたらしいぞ、じゅんこさん。

 思うに、駅前で待ち合わせ、しかも来るまで待ってるのフレーズからして、今はそう親密な付き合いではないように思う。彼が一方的に親密になりたいような匂いさえする。
 今度かかってきたら、間違いだと教えてあげるべきかなー。いつもの調子ならなんにも気にしないでそうしていたとしても、その日のわたしは、腹の中に悪魔が巣作りして尚且つ、それが気に入らないらしく建て壊し作業をしている最中。悪魔のご機嫌が頗る悪くて、身体の中に流れる水分全部が悪魔色。
 そんな言い訳をして、3度目の電話で小刻みに揺れる携帯を眺めていた。


 遅めの夕食後に飲んだ鎮痛剤が全く効かず、熟睡できない状態でその夜最後のコールで暴れていた携帯を見た、午前一時過ぎ。


 朝がまだ来ないうちから起き出して、鎮痛剤の箱をゴソゴソすると薬箱の横に立てかけてある携帯が気になった。

 あ、やっぱり留守電入ってる。

 「あ、じゅんこさん?俺だけど、呼び出しておいてごめん。店閉まっちゃって前で待ってたけど、寒いんで帰るね。もう、電話しないよ。・・・ごめん。」


 なんだい、一人でドラマしやがって。気分、悪いったらありゃしない。
 悪タレついたけど、なんか可哀想だなーって、そう思ったら腹の悪魔が暴れ出した。痛ったたた。


 そういう訳です、じゅんこさん。
 ロマンスに発展しなかったのは、彼のせいばかりでも無いようで、この可愛い悪魔のお手伝い故ってことで。


 今仲良くしているカップル達も、そういう偶然の中で成り立ってるんだなーって思った。
 腹の中の悪魔がヒッソリと身を隠している時に出会いたいよ。あたしのロマンス。




香月七虹 |HomePage