+女 MEIKI 息+
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雲の切れ間、抜けた蒼さが真っ直ぐに突き刺さる。気が付くと、わたしは長いことこの泥濘に立ち竦んでいた。輝く木漏れ日を、まだ水滴で光る睫の先に受け止めながら、そよ吹く風のまどろみを続けていた。足元から立ち昇る草木の息吹が、熱となり木々の声となってゆっくりとした流れに変わり、頭上から浴びる陽の熱とは違う湿り気で咽かえる蒸し暑い心地良さは、わたしの鼻腔を通し絶えず芯にあるものに向けて刺激を与えているかのようだった。
湿り気と熱との融合の中を、急く気持ちを阻むような泥濘に足を取られながらも、微かな流れを起こすようにして、あなたはわたしを目指し向かってくるのが見えた。ようやくの思いでわたしの足元に歩み寄り、そして少しだけ息を弾ませたあなたは、わたしの躯に初めて触れた。 わたしの感動には気付きもせず、あなたは歩みで上がった息を整える間もなく、息遣いがうわ言のように繰り返されるばかりだった。愛しい人の名を切なげに呟くその姿を、わたしはただ見下ろしていた。
わたしがわたしであることを気付かせたあなたに。
あなたの声を反芻し、あなたの耳元に唇を寄せて一度その耳朶に軽く歯を立ててから、あなたの指の動きをそっと止め小さく呟いてみたい。私を求めたければ求めて、身を硬くしたければ硬くして、あなたの心の赴くままに、ゆっくりとあなたの心も躯もわたしが開くから。こじ開けるなど致しません。
足元から立ち昇る咽かえるような命の息吹の中、その空気と一体化をおこすようなあなたの熱情を、そっと見守るように見下ろしていた時、わたしの奥から少しずつ滲み出されたものに触れるあなたの指を感じた。その溢れ出るものの感触を確かめるかのようにゆっくりと繰り返されるあなたからの刺激は、わたしの芯に訴えかけるようでもあり、息づくこの湿り気を内なるものとすりかえて、わたしは尚も滲ませるのだった。あなたの指の動きにに合わせ、あなたの更なる空想へ誘うための旅券でもあるかのように、ゆっくりと糸を引き溢れ出すのだった。
早くなったあなたの息遣いが、段々と弾ませ始めるころ、抱留めていたわたしとの接触面が更に大きく重く感じた。途切れがちに零していた呟きも、息と共に喘ぐ息遣いにかき消されていった。額に汗し、眉間の皺が深くなり、微かに開かれた唇からの吐息は、この場所に溶け込んでいくような熱さが感じられた。口を半ば開けたまま、何度も快楽を呼ぶ運動を続け、息を詰める間隔が少しずつ長く多くなり、呼吸は全て内から漏れる吐息となっていった。それは、まるで強引にその先にある刺激を導かんと、動きを更に激しくしているようだった。
何度かうわ言のように呟いていたその人の名を、開かれた唇からはっきりと聞こえたその刹那、わたしは抱留めていた重みを一層強く感じ、あなたは息を溜めたまま、嵐で陸に打ち上げられた魚のようにビクンとひとつ大きく跳ねた。
わたしからあなたに渡した旅券で、あなたは自らの頬を汚し、あなたはそれが旅券でなかったことを知る。それと同時に、あなたが見つめた先は、あなたでありわたしでもあった。 そしてそれが形をなさぬよう、風もないのにそっと葉陰を作るのだった。
近所の猫が発情期 にゃおぉ〜ん、例のあの声が「火の用心」に聞こえるヤツが一匹居る。 ひにょのぉぁ〜にゃおぉおん。 朝に晩にの巡回ご苦労様です。五月蝿い。
時期が来ればまた、静かに眠るのだろう。 巡回猫も、わたしも。
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