+女 MEIKI 息+
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いつもそれは全然ドラマのようにはいかないものだ。 はらはらと涙を流す感情はどこにも無く、遠いところから聴こえるような声を一語一句聞き逃すまいと、別に憎いわけでもない先生の目を睨み返すのが精一杯で、たぶん凄い形相をしていたのではないかと、今思う。
一通り先生の説明が終わり不明な点を何度も納得するまで訊いたはずだが、不明な点なんて元々ありはしない。不明どころか突き付けられた問題は、受け取ることはおろか部屋の中央で浮いているのである。 その浮遊したものをわたしが認めない限り、この部屋から去ることが出来ないことだけがそのときのわたしに唯一理解出来たことだ。 宜しくお願いしますと頭を下げて部屋のドアを後ろ手に閉めた時は、既に談話室に戻った人に対しての顔を作っていたし、その人に対しての声も上ずることはなかった。 頭の隅で「随分と淡々と話せるものなんだな」と思えるあたりは落ち着いているのだと勘違いするほどに、それは完璧だったと思う。
面会用のバッジを守衛室に待機している人に戻し、明るく暖かい建物内と陽もどっぷりと暮れ、砂埃を巻き上げる木枯らしが吹く外とを遮る自動ドアが開いた瞬間に、予想もしていなかったぐらい涙が出た。 通りを挟んで遊歩道があるところまで行く頃には口に手を当て声を殺して歩くのが苦しいほど啜り上げていた。
街灯もまばらな遊歩道にあるベンチにどれだけの時間を座っていたか覚えていない。煙草に火を点けようとしても、手がかじかんでなかなか箱から一本が取り出せない。やっと火を点け大きく吸い込んだ途端に、また涙が溢れ出す。 これじゃ電車に乗ることも出来やしない。 代われるものならわたしが代わって…とあまりにありふれた感情も起きたが、もし代われたところで当の本人は喜びはしないだろう。それならば、わたしの出来る限りのことで頑張るしかない。そう頭を切り替えても、なかなか頬は乾かないまま数本目の煙草に火を点けた時に携帯に着信があった。 「飯、食うか?」一言だけ。 そういえば、朝から食事のことなんて忘れていた。 「ん。食う」そう返した。 「じゃあ、銀座に着いたら電話しろよ」 「二人じゃアレだからさ、他にも…」 「ああ、もう連絡してある」
銀座に向かうまでの空いた地下鉄内でも、何度か視界が潤みそうになったが人に会うのにしょぼくれた面で行けないという気持ちがセーブしてか、留まることが出来た。 全く涙とは関係の無い野郎を従えて、遅い時間まで銀座で騒いだ。 ありがとう。
先に予定があって休みを取っていた今日の予定が、ポッカリと空いた。 さて、それならばずっと先延ばしにしていた薬を取りに行こう。 いつもの調子で出かければ、午前中には用事は済むはず。 ところが、今日は休みだという頭が先に働いてなかなか体が動こうとしない。午後の診察時間に間に合えば、何も急ぐことでなし。一度でもこんなことを思うと、暖房を消すのは勇気の要る作業になってますますウダウダとまどろむ時間が過ぎる。 考えても仕方の無いことばかりが幾度も頭を掠めては打ち消して、眠ったつもりがスッキリとしていない。だからとて、出かけるのを億劫がっても同じように繰り返されるだけ。 独り言にしては間抜けな「よし!」ってな声を出して、猫を驚かせて家を出た。
先日、買い物をしたときにオマケで【貼るオンパックス】をもらった。腰やお腹が温まるように使ったことはあるが、そのオマケを手渡されるときに『寒いときや、頭痛のときには、首の後ろの服で見えないぐらいのところに貼るといい』と、教わったので試してみた。ほぉほぉ、こりゃなかなかいい感じ。 電車に乗るとシートがこれまた心地いい。 さえない顔つきで乗り込んだ空席の目立つ電車のシートに座った途端に、目的地の二つ駅前まですっかり寝入ってしまっていた。 山手線ならいいのに。ぐるぐるぐる。 乗り換えですっかり冷気に晒されて、目は覚めたとは思う。 貼るオンパックスのお蔭か、気のせいか、はたまた寝ぼけているからか、首をすくめて震えるほどではなかった。 ぬくぬくカイロ、もう手放せないかも。
Madonna の『Hung Up』を聴いてたら、カラオケでABBAが聴きたく(歌いたく)なった。 ここんとこ全然カラオケ行ってないなあ。 この時期、混んでるんだろうなあ。 思い立ったら今行きたい!ぬぉぉぉぉ。 騒ごうと思った途端に寝そうだけど。
なんだか街が騒がしいと思ったら、クリスマス。 可愛い飾りも、あと数日で松に変わる。 空に向けて手を伸ばして指先を凍えさせた去年とは違うことを、今年は少しだけ確かめてみよう。 「あの星がほしい」と言って、もみの木のてっぺんにある星の飾りを手に入れられるだろうか。指先に触れるだけでも十分に満足しそうだけれど。 とにかく今年は試してみよう。
いつもと変わらない週末は、いつも特別な週末。 居ると居ないじゃこうも違うってことを、たまには教え込ませようじゃないの!とは思っても、伝える術が未だ見つからない。 言葉は平たいものになり、態度の曖昧さでは伝えきれた気持ちになれない。わたしが満足するものが見つかるまで諦めて付き合いなさいと言うのが関の山。 小憎らしい言葉の綾取りを楽しんでくれていることに…10点。 時々、仕掛けた罠に自分で嵌って、それを見透かされて…6点。
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