次の日、いつものように彼女は僕の家に来ていた。 夕食を食べた後のくつろぎの時間。 僕はベッドの上で壁に寄りかかって、 しばらく彼女の後ろ姿を眺めていた。 ポケットにあるのは、あの鍵。 これを彼女に差し出したら、一体どんな顔をするだろうか。 彼女がこれを受け取ったら、明日からどんな生活が始まるだろうか。 鍵を指でいじくりながら、そんな楽し気な事ばかり考えていた。 その時の僕は、ひどく子供のように浮かれていて 一番忘れてはならないことをすっかり忘れてしまっていたんだ。
「なぁ。」という声に 「なに?」彼女は振り向く。 僕はゆっくりポケットから鍵を取り出し、彼女に差し出した。 「昨日、探したんだ。やるよ。」 彼女は驚いたように、鍵を見て、 そしてそれから僕を見た。 「また寒い中、外で待つことになるのは嫌だろ?好きに使っていいよ。」
やがて彼女の口から出てきた言葉は 僕の思考をきっかり5秒だけ停止させた。
「いらない。」
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