short story


2001年02月06日(火)


16-静かな拒否-
次の日、いつものように彼女は僕の家に来ていた。
夕食を食べた後のくつろぎの時間。
僕はベッドの上で壁に寄りかかって、
しばらく彼女の後ろ姿を眺めていた。
ポケットにあるのは、あの鍵。
これを彼女に差し出したら、一体どんな顔をするだろうか。
彼女がこれを受け取ったら、明日からどんな生活が始まるだろうか。
鍵を指でいじくりながら、そんな楽し気な事ばかり考えていた。
その時の僕は、ひどく子供のように浮かれていて
一番忘れてはならないことをすっかり忘れてしまっていたんだ。

「なぁ。」という声に
「なに?」彼女は振り向く。
僕はゆっくりポケットから鍵を取り出し、彼女に差し出した。
「昨日、探したんだ。やるよ。」
彼女は驚いたように、鍵を見て、
そしてそれから僕を見た。
「また寒い中、外で待つことになるのは嫌だろ?好きに使っていいよ。」

やがて彼女の口から出てきた言葉は
僕の思考をきっかり5秒だけ停止させた。

「いらない。」

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日記才人