いらない。 彼女は首を振りながら、確かにそう答えた。 なんだって?なんて言った? いらない?どうして? 僕はひどく混乱した。 彼女の言った言葉が理解できなかった。
「え?どうしていらなんだ?あると便利だろ?」 もしかしたら声が上ずっていたかもしれない。 それほど、彼女の答えは僕の予想に反していた。 だって、 合鍵を持つということは 二人が特別な関係だという証に他ならないからだ。 僕らはすでにただの友達ではなかったし、 彼女にとっても僕は特別な人なんだと考えていたから 今更、断るなんて思ってもみなかったのだ。
彼女は、少しだけ悲しそうに 「だって、私たちは恋人同士じゃないから。」 と言った。
僕は血の気が引くような思いだった。 眩暈がした。 彼女の言葉に。 その真実に。 そして自分の愚かさに。
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