小雨が降る早稲田通りを通って、修理に出していたブーツを取りに行く。郵便局にも用があるので、明治通りを曲がる。
大通りから路地をのぞくと、日本館があった。「男子下宿 賄付」という文字が、壁に掛かっている。
大学1年生の時、バドミントンサークルに入っていた。どうでもいい活動しかしていなかったが、たまに体育館に行った。その日は、二つ年上の幹事長といっしょに、20分くらいかかる距離を歩いた。
色々な話をした。彼が、「あ、日本館だ。おれ、去年までここに住んでたんだよね。じいちゃんが厳しくて、東京の大学行くなら下宿しかゆるさん!て言うからさあ」。男の子なのに、寮のひとり暮らしでハムスターを飼っていたという。「ハムスターは話さないからいいよ」と本気でつぶやくのがあんまりおかしく、「暗いですよ〜」とけたけた笑った。
こんなことをいつも思い出すわけではない。一度思い出しても、また忘れてしまう。そういう類の、大切な記憶がいくつもある。
速達を出した帰り道は、雨が上がっていた。
|