一番仲の良かった先輩が転職するという。アルバイトでお手伝いを始めたときから同じチームで、生まれて初めてラフをきったり原稿を書いたりするのを全部教えてくれた人だ。昨日、久しぶりに二人で深夜にお茶をした。「部署が離れてからあまりじっくり話してなかったよね」といいながら。
根本のところは保守的なところが、私と似ていた。ガッツがあった。嫌だいやだと言いながら休日出勤をしたり徹夜をしたりしていた。仕事のことでいちいち傷つき、人生について悩み、それを私に話してくれる気さくで裏表のない人だった。
何回誤植やミスを、あやまってもらったか知れない。それでも怒られた次の日には、安田大サーカスの話をしてくれた。
去年の夏には、よく徹夜をした。いつも先輩と一緒だった。 「あーあ、こうやってバナナさんとの夏の思い出ばっかり積み重なっていくんだねえ」 コンビニからおやつを買って帰る道で話したことが、なぜか今になって浮き上がる。 「いやです! 彼氏との思い出が作りたいです!」 「え、社内でいいじゃん。○○さんでさあ」。
私には私、先輩には先輩に、いろいろな小さな不満や希望があって、いつもはそれぞれのところをひとりで歩いている。お互い自分でなんとかしないといけないことを、抱えている。それでも、会社に入ってすぐ、こんなにいい人に育ててもらったことは、本当にラッキーだったと思う。
最近心にたまっていたもやもやした気持ちを、彼女に全部話した。とても楽になって、こんど新居に遊びに行く約束をして別れた。最近ソファを買ったという。
家に帰る途中、久しぶりにラブリーから電話があった。明日も仕事だそうだ。私も仕事よ。「でぶさあ、肉あるから冬でも寒くないだろう」という。でぶ声ネタでひとしきり引っ張った後、はっと我に返って葛西薫どうだった?と聞いたら「最高。端正な顔立ちだったよ」というところで電車が来てしまった。感想が聞けていない。
もうこの世には望みがない、暗黒だ、巨大な悪からは逃れられないんだ、という気分になった時でも、きっと分かり合える人はいるし市ヶ谷のお堀はきれいだ。なんていい金曜日だろう。
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