王子さまに会った。 ご飯を作ってくれた。 鶏の胸肉を焼いたのと、ウィンナーを食べた。 ケチャップをつけたら、とてもおいしかった。 王子さまが持ってきたCDをかけた。 ジョナサン・リッチマンという人の 『That summer feeling(あの夏の感じ)』という歌。 あんまりいい声なので、泣いた。 ご飯粒を飲み込みながら、ぽろぽろぽろぽろ泣いた。 鼻水が出てきた。 ずっと泣いていたらばれて、笑われた。 生きていてよかったと思った。
王子さまは私のことを「タマちゃん」と呼んだ。 私がアザラシのタマちゃんみたいに太っているかららしい。 かわいいので気に入っている。 それならずっとアザラシがいいと思う。
port of notesの曲に、 "When I see your eyes, I feel There's a hidden meaning in this life." という歌詞が出てくる。 王子さまを見るたび、私はそのことを思う。 王子さまといるとき、自分が 現実と違うところにいる気がする。
王子さまには心がない。 だから、心臓の下の骨がへこんで、 背中に突き抜けそうな穴が空いている。 そんなことは知らなかったので、うれしかった。 うれしくて、その、胸のくぼみに触れてみた。 怒られると思ったのに、黙って見ていてくれた。
文章はものごとをきれいに整頓し、装飾する。 だから嘘だ。 音楽が流れた瞬間のあの幸せな沈黙だけを、私は信じる。 会社に行く前の朝、パソコンに向かいながら思う。
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