私の見た王子様は、一言では言い表せない魅力を持っていた。
少年のようであり同時にとても大人でもあり、 おおかた女性的(中性的)でありながら たまにどきっとするほど男の人の顔をした。 襟元から鎖骨が見えた。
私は王子様が目の前にいるとうまく話せない。 彼が私の横でフライパンをにぎって、 油をしいて肉を炒めている時など、 彼の顔を少しも見られなかった。
王子様は私がいても、いなくてもあまり変わらないみたいに 料理を作り、 食べ、 音楽を聴いて、 眠った。
私にはそれが、少し救いに思えた。
私の声を聞いても、私の手が体に触れても、 私の目の中を覗いても、 何も感じない人がいることが、 なぜか救いだったのである。
私が眠った後、 王子様は私の耳に触れた。
私の耳は、恋をするたびにとれてしまう。
王子様が触れると、 耳がぽろっと落ちて、 彼の胸のくぼみにおさまった。
彼の胸の穴は、 私の耳でふさがったのだ。 王子様はもう、心のない人ではない。
王子様はもう、心のない人ではない。 私は明け方に泣いた。
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