に角田光代が出ていた日、こんな文章を書いて、途中で寝てしまったらしい。
家から大学まで15分ほど歩いて、王子様と早稲田大学の学生食堂に入った。春休み中だというのに学食にはたくさんの学生がいた。王子様は学食のシステムが分からなくて戸惑っていたので、私が流れを説明してあげた。よく見ると、少しだけピンクに色づいたつぼみをつけて、大きく光のはいる窓の外に桜の木があった。快晴だった。 「トレーを持って好きなものが置いてある列に並ぶ。君は定食?」 「定食」 「じゃあここ。左側の列」。 王子様と日常的な会話を話すことが、私には不思議な(現実ではない)ことのように思える。何事もなく振る舞っているけれど、一挙手一投足についてのるかそるかの瀬戸際で、私は言葉を発する。必要に迫られて発する会話の一つひとつに、浮かされているのだ。
「好きという感情の出所はどこだ」と角田光代が書いていた。同じ疑問を繰り返している。
席が混み合っていたので、向かいに座れずに、隣り同士の席に座った。 「なんだか横並びの隣りって、レストランにいるバカップルみたいかな。恥ずかしい?」 私が言った言葉に、王子様は声を出して笑う。 「そういうこと気にするんだね。君らしいね」と。
君らしいね、なんて言われたら、まるで私のことを分かっていてくれている気になるじゃないか。そんな風に私を、把握したみたいに言われたら、もっと分かってもらおうと、努力してしまうじゃないか。
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