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2005年04月09日(土) 花見






『坊ちゃんの時代』は、「明治の文豪」とまとめられてしまう文学者たちが、私と同じように日々(明治という時代、なんて大きなものではなく)を「生きていた」という当たり前の事実を教えてくれた、素晴らしい漫画だった。恋をして破れたり神経痛を病んだり、金に困ったりしている彼らの生の近景は、学校で覚えさせられた文学史とは全く違う文学の一側面を教えてくれた。

雑司ヶ谷霊園に行った。夏目漱石、森田草平、小泉八雲、金田一京助……漫画『坊ちゃんの時代』に登場する「有名人」たちがたくさん埋まっている。

管理事務所もらった案内図片手に、広い敷地内を散策する。漱石の墓はやたら立派で、墓石のまわりは塀(?)で囲われていた。比して、金田一京助の墓はうっかり通り過ぎてしまうほど小さくて、なんとなく、(とても勝手な解釈だが)好感が持てた。ここへ参る理由が何もない自分に、少し照れくさいなあ、と思いながら手を合わせる。墓にはさまざまな植物が植えてあった。さくらの木が1本立っていた。満開だった。その下で、散ってくる花びらをつかまえようと子どもたちが走り回っていた。白い肌に、きらきらと光が反射した。

喪服を着た集団に会い、初めて自分が墓にいることに気付いた。ここにいると、怖いことがないなあと思った。少なくとも、死ぬのは怖くない。





雑司ヶ谷へは、都電荒川線に乗っていく。一日乗車券(400円)を買って、終点の三ノ輪橋まで行こうと決めた。途中、何度も途中下車をする。車内は満員だった。この沿線には飛鳥山や荒川遊園地など、お花見の名所が多いらしい。





町屋では、野球のユニフォームをした少年3人が路地にいた。ベビースターラーメンとよっちゃんを食べながら、都電の線路に降りたりまた上がったりとスリリングな遊びをしている。春の風は夕焼けと一緒になって彼らを包む。

石田千『踏切趣味』に出てきた踏切を見たいと思って、交番のおまわりさんに尋ねたら、「踏切って何、結局君はどこに行きたいの?」とけげんな顔で聞き返される。「踏切です」「いや、だから、踏切を渡ってどこに行きたいかってこと」「踏切を見たいんです」。ようやく辿り着いた小さな踏切のそばには、同じエッセイにあった古本屋が建っていて、段ボールにただ雑然と本を詰め込み、路上で(つまりは青空古書店)売っているその店に、私は2時間も長居した。ほとんどが100円から300円なのに、いい本がたくさんあった。おじさんと猫が店番をしていた。近寄りがたい雰囲気だったので、おじさんからちょっと遠い位置にある段ボールばかり覗いていた。





満開の神田川の桜を見ながら、「面影橋」から家まで歩いた。オレンジ色の提灯が花弁を照らす。小さな橋の向こうに路地がある。


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