先日友人のりかちゃんから、「同期としみったれたサシ飲みをするからバナナちゃんも来る?」と誘われたので行ってみた。相手の男性はしみったれた元アイスホッケー部で、特別な会話はしなかったけれどなんとなく私とも気が合いそうな感触だった。
りかちゃんは「ナカガワくんと私で話してても、いつも仕事のことや将来のことには全然答えが出なくて、どこまでいっても堂々巡りで、それが凄く安心するの」と言っていた。チャッピーというペット犬しか愛せないりかちゃんと、彼女がいなくてデリヘル嬢を呼んでいるナカガワくん。二人だけで飲んでいると確かに答えが出なくて危ない感じなので、「私もまた誘ってください」とお願いしておいた。
ナカガワくんはホームページを作っているというので拝見した。読んでいたら夢中になる文章ばかりだった。あんまり素晴らしいので、「こっそり転載させていただいてもいいですか?」とおそるおそるお願いしたら、「名前も全部出していいよ」という。強い人とはこういう人をいう。才能に少し嫉妬している。(以下、ある日の日記から引用)
「広告主がエラくご立腹らしい」
と、広告部の人が狼狽した様子でやってきた。
怒っているのは先方の新製品を紹介したレポート記事についてらしく、取材・執筆オレ。広告主に直接電話をして事情を訊くと、ご立腹の理由は、商品に対する批判的な意図が感じられたからだと不機嫌な声で説明があった。
どんな商品かというと、「これをつけるだけでイオンの力が働いて燃費が良くなる」というもの。
記事ではその商品を実際に試してみて、その時は「効果なし」という結果だったからそう書いた。ただ、テストは反復して行わないと正確なデータは得られないから今回の結果だけを参考にすることはできないということ、同時にメーカー発表の測定結果も同程度のスペースで掲載しておいた。
メーカー側の説明やプレスリリース(雑誌などの媒体向けに「これはこんな商品ですよ」と紹介する文書)は、「γ線」「β波」「流体力学」「放射性物質」「分子間移動」なんかの難解な言葉が何十行にもわたって並び完全に理解不能。これはおそらくわざとだろう。
難しい言葉を羅列して、読んでもいない英語の論文(先方によれば「論文の内容については把握しきれていない」との回答)を参考文献として紹介し、消費者や媒体に「よくわからないけど効くんだろうな」と思わせるのが目的だ。
「携帯電話に貼るだけでイオンの力が働き電池が長持ち」という触れ込みの「電ピタ」という商品がある。大阪市のお墨付きももらい爆発的にヒットした。でも、関西大の教授の実験で効果が無いことが明らかになり、報道番組が追求したところ、メーカー側は科学的な根拠がないことを知りつつ販売していたことを認めた(逆ギレ気味で)。大阪市は商品審査すらしないでメーカーの発表を鵜呑みにしてお墨付きを与えていた。利用者が感じた効果は完全に気のせいだった。
今、というかここ5〜6年、そういう科学的な根拠が曖昧な商品が無数に発売され、万単位の高額にも関わらず飛ぶように売れている。特徴としては、難解な理屈(そもそも“理屈”にならないようにしている。先の大学教授の実験のように正統派の理屈で攻められるとマズイから)をこねくり回して消費者と雑誌をまるめ込もうとしていること。高額な価格設定は「これだけ払ったんだから効果がないはずはない」という思い込みを助長するのに有効だ。
なめるなよ、と思う。
全ての人をなめきった商品だ。
今回のクレームには「うちは広告主なんだから手放しで褒めるのが当然だ」という意味も含まれている。確かに雑誌にとって広告主はなくてはならない大事な存在だ。彼らにソッポを向かれたら、広告収入がかなりの割合を占めるような雑誌はあっという間に立ち行かなくなる。しかし、“黒い”ものを“白い”と書くことはできない。だから今回も編集長の手直しが入って、明らかなクズ商品もあくまで“グレー”なものとして紹介するにとどまった。ちょっと悔しいけど妥当な流れだと思う。
書こうと思ったらいくらでも書けるんだ、嘘は。自分が「変だな」と思っても、先方の言っていることを右から左で垂れ流し「とりあえず褒めておけば相手も満足だし、どうせ読者もわからないんだからオーケーオーケー」ってさ。
でも、それだけは勘弁してくれと思う。
今やってる雑誌は誌面も恐ろしくダサいし、オレにとっては興味も知識もない分野だ。残業や休日取材も多いから会社の偉い人々からも良く思われていない。出版業界全体での立ち位置もかなり端っこの方だろう。不満だらけだ。ここで「オーケーオーケー」と読者に対して平気で嘘をつけるようになってしまったら、オレは何にプライドを見出して仕事をすればいいのか完全に見失う。読者のためというよりも、むしろ自分のためにこの最後の一線だけは守り抜きたいと思っている。
[余談] ……思っている、とコブシを握り締めてプルプルしていると、ガゴーンと机を蹴る音が聞こえて副編集長が憤怒の形相。「なかがわぁ、てめえ、ここ(別のページ)のホームページアドレス間違ってるじゃねえか!」とのこと。もふー、やってもうた。それは嘘じゃなくて過失ってことでひとつ夜露死苦! と先方に謝りの電話&心の中で読者に謝罪。しかし、本当に人のこと“てめえ”って言うんだわ、うちの副編。
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