アパートの屋上に上がって、中野の夜景を見る。6階建てのビルだから、あまり高くない。夜の風が気持ちいい。「あそこが新宿だ」と教えてもらったビル群は、排気ガスですこしかすんでいる。赤いランプが点滅している。見上げると、正面の空に月が見える。三日月が真上に見えるってどういうことだっけ、と理科の授業の記憶をたどった。
もう1段高いところに登る。柵を跳び越えるのに、スカートの裾をまくる。スニーカーがコンクリートに着地して、振動がアパートに伝わる。
「あんな高いビルを、どうやって建てるんだろう」と聞かれたので「大手ゼネコンが建てるんだよ」と答えた。「高いところに住むのは鳥みたいで嫌だ」と言う。こんどのアパートは2階建てだそうだ。
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