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2006年01月09日(月) 私の東京奇譚

自分の体が自分の思い通りにならないことについて、つくづく不思議で、不自由なことだと感じる。尿意や便意(きたなくてごめんなさい)、頭痛、腹痛、アレルギーによるくしゃみ、鼻水、生理のタイミング、性欲、食欲、睡眠欲。いつ破裂するか分からない時限爆弾を抱えているようなものだ。

そんなことを思いながら3時過ぎ、早稲田から都電に乗って出かける。村上春樹『東京奇譚集』を集中して読みたかった。いつ乗ってもこの電車は混んでいる。隅っこのシートに座って、半分うつらうつらしながらページを繰る。車内は人の熱で暖かい。紙袋のすれる音。人が乗り込む時、踏切の音と外気が入ってきた。

『東京奇譚集』は、主人公の身の回りに起こった、偶然とは思えない不思議な話を紹介した短編集だ。随分前に買ってあって(村上春樹の作品は、発売日に手に入れたい)仕事や雑事に追われながら日々が過ぎ、ようやく年明けに開いたとっておきの1冊だった。

なぜこれを読むために、わざわざ都電に乗ろうと思ったのか分からない。ただ、本と同様、都電も「乗りたい、乗りたい」と思いながら今日まで放って置いた小さな目標だった。

ちょうど鬼子母神前駅を過ぎた頃だろうか。3つ目の短編に差し掛かって驚いた。(物騒な話だが)都電に轢かれて亡くなった人についてのくだりが出てきたのだ。東京に残っている都電は、都電荒川線だけだ(と思う、たしか)から、村上春樹が書いている「東京」が私の住んでいる東京ならば、「都電」は私が、今、乗っている都電荒川線である。

読む速度は遅いが、好きなので本はいつも持ち歩いて移動中やカフェではいつも読んでいる。それでも、この1年以内に、「都電に轢かれて亡くなった」人の話が出てきたのは、この小説が初めてだった。そして、私が都電に乗ったのは、春にひとりで花見に出かけた時以来だ。

不思議な偶然に戸惑いながら少しうれしくもなって、春に見つけた町屋の古本屋が跡形もなく消えていたことに、それほど落ち込まずに済んだ。太陽は美しい夕焼けを車輌後方の窓に映してすぐに消え、帰りの窓からは、車のライトと、黒い闇に映った自分の顔しか見えない。テニスコートを通り過ぎる。復路の面影橋を過ぎたあたりで最後の短編「品川猿」に入り、あゆみブックスのとなりにある早稲田のシャノアールで最後まで読み切る。

体の声を聞く。早稲田通りを歩く。今日は風がないから、少しだけ暖かい。


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