橋本裕の日記
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2001年03月03日(土) |
ITが開く新しい社会 |
米国では操業短縮や解雇、設備投資の削減や業績見通しの下方修正など、景気の減速が鮮明になってきている。株式市場の下落で景気後退がさらに深刻化し、2年後には恐慌を迎えかねないと言う見方もある。
これまで米景気を牽引してきたのはIT産業だった。ところがここへきて、肝心のIT産業が不振を極めているのだという。「IT産業は高収益を上げてくれる」という神話が崩れ、ネット関連の新興企業や通信関係の業界は軒並みふるわない。
FRBはこの事態を受けて1月に2回利下げした。ブッシュ新政権も大型減税を打ち出し、景気にテコ入れをしょうとしている。このまま米経済が減速すれば、世界経済もまた危殆にに瀕することはあきらかだ。世界的な恐慌に発展する恐れも出てくる。
何とか米経済がこのまま好調を維持してほしいが、しかしこれまでのように株価の天上知らずの上昇が期待できるかというと、これはむつかしい。その理由はITの性格を考えれば納得がいくと思う。
たとえばインターネットの発達によって、私たちは低いコストで、瞬時に世界中の人々とコミュニケートできるようになった。そうすると、まず国際電話がいらなくなる。たぶんあと5年もすれば、だれも高い料金を使って国際電話を使わなくなるだろう。こうしたことは他のあらゆる分野でこれから起こってくる。簡単に言うと、ITは経済規模を拡大する方向には働かず、むしろ縮小する方向に働くのである。
ITに乗り遅れると、商売は成り立たなくなる。しかし、ITを実現しても、業績がよくなるのは当座だけで、全体的に見れば商売は縮小するしかない。ITは生産性を飛躍的に高めるが、同時にコストを押さえるので、利益の総量はむしろ縮小する。
はっきり言えば、ITは商売に向かない。むしろ商業主義を否定する方向に働くに違いない。ITで一儲けしようという人にとっては残念なことかもしれないが、金儲けばかりが人生ではないと考える人々にとって、これは実に痛快なことである。
それではどうやって、経済的破綻を逃れたらいいのか。ITの促進がかえって不況を産むとしたら、ITを押さえればよいのか。もちろん、そんなことは不可能である。今後ITはますます発展するだろう。もはやこの趨勢を押しとどめることは出来ない。
そうすると答えは一つしかない。つまり、これまでの経済至上主義的なシステムを改めることである。ITによる生産性の上昇というメリットを、世界の人類が全員で共有できる仕組みをつくることが必要になってくる。こうした方向に世界が動き始めれば、環境問題をはじめ、今地上で問題になっているほとんどの課題は解決するに違いない。
科学技術の進歩を、人類全体の福祉の向上のために活用すること、これこそが21世紀の人類が目指すべき、本当のグローバリズムではないだろうか。こうした知恵のある道を選択しない限り、人類の未来は明るくならないだろう。
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