橋本裕の日記
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2001年08月16日(木) 成熟した共生社会

 生態学者の井上民二京都大学教授は、熱帯雨林の研究者として知られている。かれの研究を一口で言えば、「生物世界はダーウィンの自然選択説に基づく競争原理によってとらえられてきたが、熱帯では共生関係のほうが支配的だ」ということだ。

 たとえば熱帯では、身を守る手段としてアリを利用している植物が多数ある。まるで用心棒を雇うかのように、特定のアリに住居やえさを提供して共生関係を結び、対動物防衛をゆだねる。

 アリと共生するオオバギ種では茎の内部が空洞状になっており、アリがここを巣場所として利用する。また、食物体と呼ばれる栄養物質が葉の裏や葉の付け根から分泌され、アリはえさの大部分をこれに依存している。

 アリは常にオオバギの葉の表面や茎内に待機し、オオバギを食べようと接近する昆虫に対して攻撃を加える。茎をよじ登ろうとするつる植物もかみ切って排除する。アリは住と食を全面的にオオバギに依存し、オオバギも生存をかけた防衛をアリに任せている。

 こうした「共生原理」が濃厚な熱帯に比べて、温帯ではむしろ「競争原理」が目立っている。そしてこれまでの生物の研究は温帯をモデルにしてきた。そのため、どうしても生物学者は競争原理で考えるのが支配的だった。

 たしかにこうした共生関係は最初から存在したわけではない。最初は単なる寄生関係でしかなかったものが、熱帯では約1億年という歳月をかけて、そのような支えあう関係が築かれた。

 ところが温帯では、そうした成熟した関係を作る前に、氷河期が何度も押し寄せ、生物の共生をうながす進化が中断された。その結果、その社会はいつまでたっても成熟することが出来ず、競争関係が改善されないまま残っているのである。温帯社会は「共生原理」で見ると、発展途上の社会であるわけだ。

 いま生物学に「競争から共生へ」というパラダイムシフトが起こっている。ダーウイン進化論が全盛期の頃は、人類社会も「競争原理」でとらえる弱肉強食の思想が横行した。これからは「共生原理」を基本にした新しい考え方が、社会科学や思想界でも主流を占めることになりそうである。

(参考サイト) http://osaka.yomiuri.co.jp/oldtopics/scbi/home.htm
         http://homepage2.nifty.com/ToDo/cate1/kyousei5.htm


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