おてんきや日記
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2003年08月11日(月) とある出来事(タイにて)

タイという国が、好きです。
今までに3度訪れていますが、3度目のときは、家族が3人になってから。
娘が1歳5カ月のころでした。

タイの繁華街には風俗店が多くあります。
夜になると、そこで働くタイの女の子たちは濃い化粧をし、妖気を漂わせて客を誘います。
それはもう見慣れた光景であり、どうということはなかったのです、今までは。

娘と一緒に夕方の浜辺で遊んでいました。
裸足になって波で遊ぶ娘を見て、1人のタイ人の女の子が近寄ってきました。
「pretty! pretty!]
と娘を抱きあげ、ほおずりをしました。
女の子は、まだ幼さが残るような感じはありましたが、風俗嬢であることは見て分かりました。

その女の子は、自分がイサン(タイの地方)の出身であること。
弟や妹がたくさんいて、自分が都会に出てきて働かなくてはならないこと。
うちの娘を見て、自分の妹たちを思い出して抱っこをしたくなったということを
片言の英語で話してくれました。

後ろのほうに、同じような女の子たちが数人おしゃべりをして遊んでいました。
どの子もよく見るとまだあどけなさが残ります。
この子たちが、夜になると繁華街で妖しげな店の前に立っている風俗嬢なんて……。
まるで普通の女の子じゃない。

タイの地方では、まだまだ生活が苦しいと聞きます。
みんな同じような理由で、一番手っ取り早くお金になる「風俗」という仕事をしているのかしら。
そして、この子たちの絶好のお客さんが日本人であることも、何となく情けなく思えてなりませんでした。

女の子は、自分の仲間にうちの娘を見せてあげてもいいか
と私たちに聞いてから、娘を抱っこして仲間のところへ行きました。
女の子たちは、きゃーきゃー喜んで、代わる代わるに娘を抱っこし、ほおずりをしました。
不思議と娘はそれを拒否しませんでした。

女の子は、合掌をしながら何度もお礼を言って、仲間たちと少し遊んだ後、夜の街へと帰って行きました。

夜の街に立つ風俗嬢が、「ひとりの人」となって私の目に映りました。
家族や兄弟姉妹を大切に想う、純粋なひとりの女の子でした。
社会や文化が違うので、一概に比較はできないのでしょうけど、
タイという国、そして、日本について、少しだけ考えさせられた出来事でありました。
決して豊かとは言えないタイの人々の純粋さと優しさは、日本人である私たちの忘れかけているものかもしれない。
そんな気がしました……。

ちょっぴり暖かくて、ちょっぴり切ない……。

そのときのピンク色に染まった夕方の海の光景を、私は忘れることができないのです。


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