■ 日々の歩み。 ■
徒然の考察・煩悩・その他いろいろ発信中。

2003年05月03日(土) 大人の階段。

 先週に引き続き、今週もシネパトスへ。
本日は、香港の前衛映画といえばこの人、王家衛監督の「ブエノスアイレス」

 ウォン・カーウァイ監督といえば、映像はクリストファー・ドイル
発色が独特で好き。特に青赤黄の発色が凄く綺麗。
それまでカンフー一辺倒で、どこかダサかった香港映画のイメージを、
若い女性に受ける、お洒落なイメージに換えた功労者。

 で、「ブエノスアイレス」といえば、同性愛を扱った衝撃作。
のっけから、白ブリーフ一丁のレスリー・チャントニーレオンが、
もう鼻息も荒くキスして弄りあっていて、生々しいっつうかなんていうか…。

 トニー・レオンは、手が泳いでたり若干腰が引け気味なんだけど、
レスリーが、超ノリノリに見えるのね。

公開当初も渋谷に見に行ったんですが、この初っ端の映像に、まだ若かった私は
大変な衝撃を受けまして(そりゃそうだ)、その後の話の内容なんて
吹っ飛んじゃって、半分くらいしか判ってなかったのね。

 
 内容としては、掻い摘んでみると、ゲイの香港人のカップルが、
アルゼンチンのブエノスアイレスで、だらだらとひたすら喧嘩して仲直りして、
でも結局、常識派の彼の方が面倒くさくなっちゃって、全部放り投げて
逃げちゃった。といった按配。うん間違ってない。

なんでトニーはこんなにハッキリしないんだろう
なんでレスリーはこんなに我儘なんだ、これじゃあ只の嫌なヤツじゃないか

と、20歳の私には、寄ると触ると喧嘩してすれ違ってる2人の姿や言動は、
ちょっと理解不能で、釈然としなかったんだけど。

 あれから5年。伊達に私も年を取った訳じゃなかった。
地球の裏側、故郷から遠く離れた異国で、なんの確定された未来もなく、
不安や虚しさを抱えて生きている2人が、自分の中の空虚を、身を寄せ合う
ことで、仮初に埋め合わせていくような、刹那的な関係。

 自分のことで精一杯な人間的な弱さと、それでも時には、傷ついた愛する人を
一生懸命慰め、癒そうとする姿に、切なさが込み上げてきて、5年前には
見えなかった2人の姿が、今は確実に見えてきたように感じました。


 で、レスリーが、自由奔放で我儘で無邪気で、でも何にもできない男を
演じていますが、もう可愛いのなんのって!!! 

 もうあまりの可愛らしさに、胸キュンの連続ですよ。
無職のくせに料理も出来ないし、本当に役立たず。しかも我儘で気に入らない
ことがあると、プイッと出て行っちゃうし浮気はするし、何様だ!!と、
胸倉掴んで引き倒したくなるようなヤツなんですが。

 超・小悪魔ちゃんキャラ全開。

レスリー、当時40前後なんですけどね。
両手を怪我して、包帯でグルグル巻きにされれば、子犬のようにだらしなく
テーブルについて、「次は鳥が食べたい」とか言って、トニーに箸で
食べさせてもらうのですよ!!

 トニーが風邪で寝込んでいれば、そっと寄っていって、
「もう2日もご飯を食べてなくて、お腹が空き過ぎて死にそうだ」
って、病人叩き起こして、ご飯作らせるんですよ!!!

 そんなオネダリの数々に、トニーは翻弄されっぱなし。
でもぶつぶつ文句言ったり時々キレながら、なんだか幸せそう。いいなあ。


 自分にはない奔放さと無邪気さに惹かれて、愛しているから自分だけ見て欲しくて、
でも束縛されてくれない奔放さに苛立って。一種のパラドックスに陥るトニー。

 奔放に振舞っても、愛され赦されることを当然と捉えていて、
トニーの苦しみを最後まで理解しようとしなかったレスリー。
全てを失って、初めて自分の中で、彼の存在のがどれだけ大きかったかを
思い知っても、すれ違い綻びてしまった2人の絆は、修復できないまま。

 アルゼンチンタンゴの、もの悲しい旋律が、フランス映画のような
アンニュイで救いがない雰囲気に嵌っていて、否が応にも盛り上がる。



 こういう交錯する恋愛の機微、というのを理解できるようになったなんて、
5年の間に私も大人になったんだなあと、感慨に耽ってみたり。


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まめ。 [HOMEPAGE]