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2004年03月05日(金) 鍵のかかる部屋。

 今日は、Kさんと元赤坂の一風変わったフランス料理屋さんへ。
「カナユニ」 http://www.kanauni.com/

 昭和41年開業のレストランですが、日本で初めてボジョレ・ヌーボーや
キール(白ワインとカシスのカクテル、私の大好物)を店で出したという
昭和の雰囲気を色濃く残す、なんともクラシカルなお店。

 ここの名物は、「オニオングラタンスープ」なのですが、
かの 三島由紀夫 が愛し、エッセイでも語ったという逸品。

 まあ今ではオニオングラタンスープはどこでも食べられるメニューと
なってしまいましたが、じっくり煮込まれたトロトロの玉葱のスープは
なんとも懐かしい美味しさでしたね。

 土地柄もあって、全体的な値段はかなり高めですが、私たちが
食べた限りでは、料理はとっても美味しいです。
それほど奇をてらったものではないけれど、手間ひまかけて
作られた素朴な味わいの、昔ながらのフランス料理。


 で、この店のなにが凄いって、やっぱり店の雰囲気だね。
店は地下にあるのですが、地上の入り口は、クラシカルな鍵の
モチーフが掲げられた看板と古びた木の扉で、派手に店名の
書かれた看板ではないから、うっかり見落としてしまいそう。

 木の扉を潜り、狭くて急な階段を下りると、それこそ
森茉莉の小説のフランスの雰囲気をそのまま再現したような
どこか物憂げで居心地のよい、素敵な空間が広がっているのですよ。


 セピアがかった薄暗い照明、磨かれた寄木タイルの床や、短くはない時間に
燻されたクラシカルな調度、テーブルに飾られた、真紅の薔薇のモチーフの
アール・ヌーボォー調のキャンドルランプと、本物の薔薇の一輪挿し、
静かな店内に心地よく流れるジャズの生演奏、微かなお客のさざめき、
蝶ネクタイに整えられた髪型の、品のよい初老の給仕。

今まさに、白いスーツの三島や、若かりし日の森茉莉が
テーブルにいても違和感のない世界。


 
 金曜日の夜でしたが、30歳以下の客はどうみても 私たちのみ
素敵な仕立てのいいスーツを着こなした、初老のお客様が大半。
最近ちまたで大流行な、ナンチャッテ大人な隠れ家じゃなくて、
本物の大人の社交場 といった感じで、結構ドキドキ。

 でも、どう考えても場違い感が漂っていたに違いない私たちに
お店の方はとても優しかった。

 森茉莉 が、高級店といわれる日本の気取った店の高圧的な接客態度に怒り、
「フランス人の給仕は、どんな客にも優しく微笑みかけた」
なんて書いていましたが、きっとここなら、店の雰囲気といい
給仕の優しい笑顔と、心地よい親しみやすさといい、気に入ったに違いない。
 
 ホームページの三島由紀夫の文章を読んで来た、と話したところ、
お店の歴史を綴った小さな冊子や、件の「オニオングラタンスープ」の
文章の載った、三島由紀夫全集や、お店の名前の由来についての、
ちょっと可笑しい倉本聰のエッセイなど、色々なものを見せてくれました。

 
 懐古趣味、と言われればそれまでですが、店の戸棚の隅や
天井の梁の陰に、私の好きな情緒的・文学的な空気が静かに
降り積もっているようで、本当の意味で趣味のいい大人の世界に
触れた気がしました。

 ああいう場所に、相応しい大人になりたいねえ、と
Kさんと頷きあった、金曜日の夜のおはなし。
 


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まめ。 [HOMEPAGE]