最近のお気に入りの話。 江戸川乱歩の短編。「押絵と旅する男」
澁澤龍彦編集の「暗黒のメルヘン」(河出書房)という短編集に 収録されているのを読んだのですが。
この話、実は映画になっていて、5年くらい前に観たんですが、 こっちはねえ。映像は綺麗なんだけど、なんだかダラダラ間延びしてて、 すんごく眠かった記憶が。(鷲尾いさ子は綺麗だった) http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD28357/comment.html
小説の方が、絵画的・ビジュアル的といいますか。 読み進めていくと、御伽噺のような現実味の薄い内容と相俟って、 色とりどり、極彩色の映像が、万華鏡のようにくるくると 脳裏に浮かんでは消えていく心持がします。
極彩色の真ん中には、黒ビロウドの細身の背広を着込んだ 青年とも老人ともつかない男が、白い面で佇んでいる、と。
まあなんといっても、私がこの話を気に入った理由は、小道具の使い方。
特に、押し絵(覗きからくり)と凌雲閣。
凌雲閣は、明治23年に浅草に作られた、12階建ての塔。 当時としては画期的な高層建築で、みんなの度肝を抜いたらしい。 一昔前の東京タワーみたいな感じで、観光名所だったようです。 (お土産屋さんや見世物小屋が、たくさん出ていたらしい) http://www.aurora.dti.ne.jp/~ssaton/taitou-imamukasi/asakusa-12kai.html
残念ながら、関東大震災で倒壊してしまったので、現存しませんが、 両国の江戸東京博物館で、模型を観たことがあります。
押絵は、高価な飾り用の羽子板でご存知の方が多いと思いますが、 立体的にふくらみをつけた、布製の絵画。
主に人物画が多く、これに書き割りの背景をつけて箱に収め、 小さなレンズから内部を覗くことで奥行きをつけた立体紙芝居を 覗きからくりというらしい。
これも実物を一回だけ見たことがあるのですが、やはり 千葉の佐倉市にある国立歴史民俗博物館での展示物で 実際にお祭りなどの見世物としては、現存していません。
どちらも、現在の私達の生活には全くもって馴染みがないものですが、 だからこそ、日常的空間の中に、突如起こる非日常的・奇怪な出来事の 装置としては、うってつけなんだろうな。
|