思考過多の記録
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2005年07月03日(日) |
Stand Alone,again |
僕の作・演出としては1年7ヶ月ぶりとなる舞台『Stand Alone〜真っ直ぐな線を引いてごらん〜』が終了して、今日で1週間が経った。この日記も随分とご無沙汰していたが、そんなわけで公私ともに忙しかったのである。 今回の芝居のメンバーで初めて顔合わせをしたのが4月23日。翌日が稽古開始だった。それから2ヶ月。初稽古の翌日にJR福知山線の脱線事故が起き、ひしゃげた車両が取り除かれ、線路が外された。そして復旧作業は進み、稽古終了間際に運転が再開された。それだけの期間、僕達は1本の芝居と格闘していたのだ。 実際に公演の具体的な話が始まったのは去年の末頃だから、それから考えれば、ほぼ半年にわたって僕は芝居に関わっていたことになる。
今回の公演が成立するに当たっては、いつもながらに大変な紆余曲折があった。頼んでいたスタッフさんが次々とNGになった。キャストもなかなか決まらず、最後の役者が合流したのは公演1ヶ月前を切っていた。そして、ちょっとした行き違いから、キャストを1人降ろした(これは僕にとって初めての経験だった)。 しかし、危機にぶつかる度に、何とか公演を成立させようと、多くの人が奔走してくれた。いなくなったスタッフさんの代わりに急遽お願いした人達は、みな快く仕事を引き受けてくれた。降ろしたキャストの代わりにお願いした人も、忙しいスケジュールを縫って参加してくれた。途中参加の人も、「どうしても」と泣きついたのに応えてくれた。 結果として最初に想定していたのとは少し、いやかなり違ったメンツになった今回のメンバーだが、その結束力は固く、稽古場は和気藹々とした雰囲気だった。初めて稽古場を訪れた今回初参加の制作スタッフの人は、 「思ったよりも雰囲気が良くてよかった」 と感想を漏らした。 まるで、はじめからこのメンバーが揃うことが想定されていたように、まとまりのいいチームができあがっていた。まさに、奇蹟だった。
芝居の内容自体はかなり重いものだった。また僕以外の全キャストが、全編にわたって一人二役以上(多い人は五役)を演じるという特異な構造もあって、役者一人一人にかかる精神的・肉体的負担は相当なものがあった。しかし、彼等はそれを果敢にやり遂げたのである。彼等の中には、終演直後に様々な思いが渦巻いたに違いない。 主演を勤めた女優は、公演終了後も役の気持ちが消えず、現実感のない毎日を過ごしていたという。まるで、マラソンランナーが全コースを走りきり、ゴールに倒れ込んでもまだ自分の中でレースが続いているという感覚だろうか。それくらい、彼女の中でこの作品と演じた役の存在は大きかったということである。また、それだけ彼女がこの作品に全身全霊をあげて取り組んでいたということでもあるだろう。 実は、彼女とは公演の準備段階から、裏のことも含めていろいろと話し合って進めてきた。それだけ苦労を分かち合ってきたということだ。そんなこともあって、公演が終わったことへの感慨は、他の参加者にも増して大きかったに違いない。
僕の集団は「ユニット」であるため、公演毎にメンバーが替わる。すなわち、メンバーは一期一会ということである。どんなに素晴らしい人達と出会っても、基本的には1回で分かれなければならない。そこが劇団と大きく違うところだ。 まるでここは「広場」のようである。いろいろな場所から集まってきた人達が、一時グループを作って芸を披露し、終わるとまたそれぞれの場所に帰っていく。または、新たな出会いを求めて散っていく。 みんな、広場を通り過ぎていく。 先に書いた主演女優は、本番のビデオを見る度に、仲間や愛する人を全て失ってしまった自分の役の悲しみに、もう稽古場であの仲間と会えない自分自身の寂しさを重ねて、毎回涙しているという。しかし、やがてはその気持ちさえも、彼女の中から消えていくだろう。 参加者達は、みな既にそれぞれの集団に帰り、また新たな場所で、新たな活動を開始しているのだ。懐かしい人達、お馴染みの人達と再会し、これからの話をしているだろう。僕達のあの日々は、既に彼等の中では「過去」の1ページに変わっている。
そして、僕はたった一人、ここに残っている。 勿論、寂しさは禁じ得ない。けれど、この形態で芝居をしている以上、これは宿命といえよう。 僕は今、あの仲間達と出会えたことに対して、感謝の気持ちでいっぱいである。この芝居を一緒に作ってくれた、この力のない僕に最後まで力を貸してくれた、そしていろいろなことを教えてくれた、素晴らしいスタッフ、キャスト、そして全ての人達に、心から「有り難う」といいたい。 この気持ちは、どんな言葉でも言い尽くすことはできない。 今回の作品で、僕は人と人とのつながりの大切さを描いた。今回の公演を終了した今、僕は改めてそのことを実感している。 今回の公演に際して、残念ながら関係が切れてしまった人もいる。これに関しては、本当に心残りだ。また、逆に新たに関係を結べた人もいる。これを機に、再びいろんな人と結びついていこうとしている人もいる。 そんな全てのことを含めて、僕にとってこの2ヶ月は、まさに宝物のような時間だった。
そして、僕は今‘Stand Alone’状態に戻っている。 しかし、いつかまた、素敵な人達と関係を結べて、素晴らしい舞台を作っていける日がきっと来る。そう信じて、これからもここで生きていきたい。 そんな万感の思いを込めて。
さらば、『Stand Alone』。
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