思考過多の記録
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2007年06月04日(月) 切ない「一期一会」〜鍵を探していた〜

 最近はネットのコミュニケーションの場が、全体的にmixiに移行している。不特定多数の人に開放されたブログで手酷く傷付いた人達の受け皿になっているというのが巷に流布している解説である。基本的に「匿名」というのが存在しないので安心というわけだ。
 ご多分に漏れず、僕もmixiを始めた。それは、このサイトで知り合ったメル友からのご招待だった。昨年の8月から始めたのだが、そんなに毎日書くわけではないにしても、日記の更新というものがあり、徐々に僕もそちらが主体となりつつある。



 そんな中、mixiの「コミュニティ(コミュ)」(ある事柄やアーティスト等のテーマを決めた掲示板とでも言えばいいのだろうか)で僕が参加している「中島みゆき」で、「なみから」と呼ばれるイベントが先週末にあった。これは、基本的に中島みゆきファンの人が集まり、日頃カラオケで何となく歌いにくい中島みゆきの曲だけを思い切り歌おう、という壮大な(?)イベントである。もう7回を数えるらしいが、僕も含めて今回初参加という人も数人いた。
 主催者チームがちゃんと組織されていて、彼等の仕切りで30数名という大所帯が動く。まず、部屋割りに基づき、各部屋3〜4人(うち一人が「部屋長」)ずつに別れる。そして2時間歌いまくる。その後、部屋をチェンジして違うメンバーでさらに2時間。最後に大部屋に集まり、全員で大合唱を1時間。こうした流れてイベントは進んだ。
 参加者は全員ハンドルネームが書かれたプレートの着用が義務づけられる。オフで会うのが初めての人も多いからだ。



 二つめの部屋に行ったとき、部屋長さん(男性)の他にもう一人女性がいた。ネームプレートには「姐」とある。細身でショートヘア。そして童顔。酒のボトルがもう半分くらい空いていた。
「もう何ヶ月も、ずっと飲まなかったんだよ。そしたら、10キロくらい痩せちゃった。」
と聞きもしないのに彼女は言った。もうだいぶ出来上がっているようだった。
 後から聞いた話だが、彼女はこのイベントの1回目から参加している常連だったが、ここ数回は「引きこもり」と称して姿を見せていなかったらしい。「姐」さんが「この曲いいよね」という歌を歌ってあげたら、凄く喜んでくれた。また、彼女の選んだ曲がたまたま女性ボーカル同士のデュエット曲だったので、それに乗っかってハモったりもした。
 「姐」さんは調子に乗ってどんどんど酒を飲み、とうとうボトルを1本空けてしまったのだ。
「自分へのご褒美。」
と彼女は言った。



 その部屋での時間が過ぎ、大部屋に移動する途中、彼女は僕に、
「もっとまったり話したいね。」
と言ってきた。呂律はあまり回っていないが、彼女は確かにそう言ったのだ。何故か僕は、彼女の存在が引っかかった。
 大部屋に移動したとき、僕は彼女の隣に座った。
「あたしね、手が小さいから、昔リコーダーのときに小指が届かなくて、先生に凄く怒られたの、ほらね。」
そう言いながら、彼女は僕に手を重ねてきた。確かに、彼女の指は、僕の指の関節一つ分くらい短いが、小指はそれ以上だった。彼女はこの行為を2回やった。
 事前に調査した「みんなで歌いたい曲」で上位になった曲を、みんなで合唱することになったとき、彼女はだいぶ酔いが回っていて、僕にもたれかかってきたのだ。
「あたし、本当は積極的なの。」
とよく意味が分からないことを言いながら、彼女は僕に寄り添い、そのちいさな指で、僕の胸のあたりを触った。
 彼女は、完全に出来上がっていた。僕は何が何だか分からなかったが、しかしもしこの部屋に誰もいなかったら、僕はそのままさらに彼女を抱き寄せ、彼女の顔を上げさせて、キスをする流れだろうと思う。実際、僕は自然にそういう気分になった。
 大部屋では合唱が始まる。
 彼女は僕の方に腕を回し、僕も彼女の方に腕を回して大合唱した。ほとんど酔っぱらいのオヤジ同士のようだったが、僕は完全に素面だった。



 この大部屋イベントの途中で、彼女は気分が悪くなってトイレへ。運営メンバーで常連らしい女性が付き添った。暫くして2人は戻ってきたが、その女性は「姐」さんを自分の隣に座らせた。このままでは危険だと判断したのだろう。僕の隣には、「姐」さんの荷物が残った。そして、彼女は倒れていた。
 何人かが帰った後、近くの居酒屋で2次会があったが、その時も彼女は完全に出来上がっていて、一人倒れ込んでいた。僕は彼女に下心があると他の人に思われるのが嫌で、敢えて背を向けた席を選んだが、彼女のことは気になっていた。2次会で少し話が出来るかなと思ってはいたのだが、それは無理だった。自己紹介で彼女の番になったが、言っていることは意味不明。みんなで「もう振るな!」ということになった。常連の人にきくと、どうやら彼女は毎度こんな感じらしかった。
「でもね、でもね、いつもは2人で3本空けるんだよ。」
と言い訳にもならない言い訳を、居酒屋へ移動中に彼女は僕に言った。そして、エスコート役の女性は、彼女を僕から遠ざけようと必死なのが分かった。



 後日、僕はこのイベントの主催者の女性にメッセージを送り、「姐」さんのあの時の行動をどう思うか、そして僕の希望は素面で彼女と話がしたいということだが、それはどうなのかを訪ねた。
 彼女の答えはこうだった。
 「姐」さんはこのイベントの第1回目からの参加者で、主催者グループと仲も良く、謂わば常連さんだった。主催者の女性いわく
「彼女は繊細で、ちょっと変わった女性だと感じています。
それほど“フレンドリー”というタイプではない印象です。」
とのことだった。最近は「引きこもり」と称してオフ会にも顔を出さなくなっていたが、今回久々に参加したとのことだった。あの時は、酒が入っていたので、それも久々の酒だったので、暴走していたようである。
 さらに、タイミングの悪いことに、彼女には現在もうひとつの問題があったのだ。彼女が入っている全く別のコミュの主宰から、「引きこもってないで出ておいでよ」的なことをしつこく言われていて、それを「姐」さんは嫌でたまらないと感じているのだという。
「私は放っておかれるのが好きなの!構われたくない!」
と彼女は言っていたそうだ。
 そういったことを考えると、今このタイミングで誘うのは、「姐」さんを追い詰めることになるのではないかというのが、主催者の女性の感想だった。



 これを受けて僕は、「姐」さんにメッセージを出した。そして、よかったらマイミク(mixi上のお友達。それぞれのページが直接リンクする)になって欲しいこと、もし気が向いたらメッセージが欲しいこと、そして、本当は会って話したいが、それも気が変わったらでいいこと等を伝えた。
 僕は祈るような気持ちで彼女からの返信を待った。もし迷惑な奴だと思われていたらどうしよう、うざいから無視しようと思われているんじゃないか、そういったことが僕の頭を駆けめぐった。
 そして、木曜日、やっと彼女から返信が来た。
「構われると逃げる性格だったりします。マイミクはいいですけど、mixiはあまりログインしないし、足跡(閲覧記録)を着けたくないので、コミュをチェックして終わりだったりなんです。」
そんな内容だった。そういえば、主催の女性も「姐」さんについて、
「人間関係に距離をとるタイプなんです。」
と書いていた。
 確かに、あの時の彼女とは別人のような、ある種そっけない、そしてシャイな感じの文面だった。



 しかし、内容はともかく、彼女からメッセージが来たこと自体が僕にとっては嬉しかった。早速僕は「マイミク申請」のメッセージを送った。そこにも、「気が変わったら、会って話をしたい」と書いておいた。あくまでも、彼女の気持ち次第ということいを強調したのだ。
 さらに数日後、彼女から「承認」のメッセージが届いた。そこには、
「取り敢えず承認しましたけど、素面だとテンション低いし、mixiのログインも少ないのです。」
と書かれていた。
 なるほど、距離を測ろうとしているなと僕は思った。しかし、マイミクになることを承認した段階で、彼女は僕を無視や拒絶はしていないことは事実だと思う。



 これが第一歩なのか、これで終わりなのか、僕にはよく分からない。過去の数多の事例において、僕は「期待」を「確信」と取り違えて、随分と痛い目にあった。ぬか喜びは禁物である。
 一つ言えることは、彼女と同様、僕も他人との距離を取ろうとするタイプだ。だから、なかなかうち解けられない。どんな集団の中にいても、僕には常に孤立感がある。相手へのアプローチの仕方が分からないのだ。そして、おそらく「姐」さんも同じタイプなのではないかということである。
 あの時、「姐」さんはしたたか酔っていた。しかし、僕の中の何かと、彼女の中の何かが、一瞬でも「共鳴」したのではないかと僕には思える。
 心の奥底に、他人には触れさせたくない深い闇のサンクチュアリを否応なく抱えている。それが、あの時間の中でお互いに分かったのではないのだろうか。「姐」さんの場合、それが久々の酒が見せた幻想なのかも知れない。そして僕は、酒を通して浮かび上がってきた「姐」さんのいつもとは違う顔の中に、そのサンクチュアリの存在を見出した。それもまた幻想なのかも知れない。
 だから、彼女は初対面である僕にもたれかかった。



 それがそれが幻想なのか、真実なのか、何としても僕は確かめたい。
 もしかすると、僕が彼女の心の一番奥、サンクチュアリへと通じる扉の鍵を持っているのかも知れない。そして、「姐」さんが、僕の心の一番奥、サンクチュアリへと通じる扉の鍵を持っているその人なのかも知れない。
 それを確かめたいのだ。
 たんなる酒の席のよくあるエピソードなのか、それともお互いが無意識のうちに「共鳴」したのかでは、天と地ほど違う。僕は、後者であって欲しいと思う。
 そして、もう一度彼女をちゃんと抱きしめたいと思う。



 僕は彼女にメッセージを出そうと思う。
 いつでもいい、酒が入ってもいい、是非一緒に会って話がしたい。勿論、あなたの気持ちが向いたらでいい。僕は待っている。



 僕と「姐」さんが再び会う日は来るのだろうか。それとも、これでお終いなのだろうか。
 そういえば、今回のイベントのタイトルは、7月発売の中島みゆきのニューシングルのタイトルに因んで「一期一会」だった。


hajime |MAILHomePage

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