思考過多の記録
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2008年01月16日(水) 本当の犠牲者は

 アフガンの多国籍軍への給油活動の継続を定めた所謂「給油新法」が、衆議院で可決→参議院で否決→衆議院の3分の2で再可決、という異例の手法を使って成立した。
 いろいろなところに書かれたことだが、直近の「民意」を反映した参議院で否決した法案を、「郵政民営化賛成か反対か!」の一点のみの古い民意しか反映していない現在の衆議院で再可決するという手法は、どう考えても乱暴で、議会制民主主義を形骸化する酷いやり方だと思う。



 再可決の日、朝日新聞にコメントを寄せた慶応大学の教授は、この法案が「軽い」ものであり、「国民の懐を痛めるようなものではない」という理由で再可決は妥当というコメントを載せていたが、事実誤認も甚だしい。もし意図的なものでないとするなら、慶応の学術的なレベルが疑われる。
 まず、この「給油新法」は自衛隊を海外に派遣する、しかも国連のお墨付きを得たわけではない、所謂「アメリカとその一味」による軍事活動への派遣である。しかも、外国の艦船に給油をする訳なので、本来なら憲法が禁じている「集団的自衛権の行使」に当たるか否かで、もっと活発な論議があってもいい話だ。しかもこの法案、前の法律にあった自衛隊の活動の国会での承認の条項を削除してしまった。国民の代表である国会で、軍隊である自衛隊の活動のチェックができないのである。シビリアンコントロールの上で大変問題である。
 実際、この法案の審議の過程で、アメリカの補給艦に自衛隊が給油した燃料が、アフガンではなくイラクの作戦に転用されたのではないかという、限りなく「クロ」に近い疑惑が持ち上がった。新法ではこうしたことのチェックもできない。
 その意味で、「軽い」法案では決してないのである。
 また、他国の艦船に対して、日本が提供する油は「タダ」である。当然これは日本が税金で買うものであるから、「国民の懐が痛まない」というのはまやかしだ。



 しかし最大の問題は、この自衛隊の活動が本当にアフガンの人達のためになっているのか、ということではないだろうか。
 自衛隊が給油した他国の艦船は、アフガンでのタリバン等武装勢力の掃討作戦に参加している。これをもって給油推進派・別名アメリカの子分達は「テロとの戦いに日本が参加するかどうかの重要な法案」「国際社会も日本に期待している」と言っていた。
 しかし、自衛隊の油の使われる先は結局は「軍事作戦」であり、それはアフガンの社会と国土にダメージを与えている。そして、それは今も成功しているとは言えない。アフガンの治安は最悪の状態が続いている。
 こういう状況の中、本当に苦しんでいる普通の人々を救うために、日本ができることは他にあるはずである。医療支援や技術支援といった民生部門での支援である。こちらの方が、直接現地に赴かなくてはならないリスクはあるが、所謂「顔の見える」実質的な支援になり、アフガンの人達にも喜ばれるのではないだろうか。



 紛争地から遠く離れた洋上で、ひたすらアメリカの下働きのように軍艦に給油し続けることが、果たして本当に「国際貢献」であり、アフガンのためなのだろうか。
 せっかく一度自衛隊が帰ってきたのだから、そういう論議がもっともっとなされてよかった。最終的に数の力で押し切って、これまでと同じことをし続けることを選択したこの国は「思考停止」に陥っているとしか言えない。
 いや、何よりも、本当に大切なのはアフガンの人達ではなく、「国際貢献」「テロとの戦い」というお題目であり、それを仕切るアメリカの意に沿うことなのだとこの国は考えている。そのことを、国際社会に向かって宣言してしまったのが、今回の新法成立の顛末なのである。



 いい面の皮なのは自衛隊、そして、本当の犠牲者は「テロとの戦い」の巻き添えになっているアフガンの人達なのである。


hajime |MAILHomePage

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