思考過多の記録
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「チェ 28歳の革命」について書こうと思っていたところに、とんでもないニュースが飛び込んできた。
これ以上の醜態はない。 各メディアやネットで広く取り上げられているように、先週末に行われたG7・首相先進国財務相・中央銀行総裁会議の後の記者会見で、中川昭一財務・金融担当大臣(当時)が、ろれつの回らない状態で会見に臨み、記者との遣り取りもちぐはぐという前代未聞の醜態を演じた。 また、日銀の白川総裁が記者の質問に答える間、その横で目をつぶって下を向いていたり、白川総裁への質問を自分へのものと勘違いしたり、明らかに異常な状況だった。 当の中川氏は当初、「風邪薬を大量に飲みすぎ、朦朧としていた。」と言っていたが、その遣り取りをテレビで見る限りでは、どう見ても「出来上がったおじさん」が喋っているようにしか見えなかった。 当の中川氏も、後になって、直前にアルコールを「たしなんだ」「口をつけた」ことを認めている。 それどころか、あるメディアの報道によれば、この記者会見の前に行われた日露蔵相会議で、「麻生首相」と言うべきところを「麻生大臣」と言い間違えるなど、既におかしな言動が見られたと言う。
今、世界はアメリカ発の金融危機の影響が実体経済に及び、未曾有の世界同時不況下にある。 これは、1929年の「世界大恐慌」以来だ、という見方さえある。 ドルの信用が失われ、各国の持つ米国債の価値が下がり、そのことで各国の財政が痛む。 また、新興国を含めた世界同時不況の中、特に輸出に依存する日本のような国を直撃する、アメリカ・ロシア・フランス等で台頭しつつある保護主義の流れ。これはまさに、あの「世界大恐慌」の後の状況に酷似している。 こういった国の内外の経済的な諸課題に対して、どんな政策が打ち出せるのか。 今回のG7には、こういった緊急かつ難しい問題を論議し、解決に向けての方向性を打ち出すべき重要な役割が課せられていた。 大袈裟ではなく、世界中の人々一人一人の命と生活が、あの会議の出席者の肩に重くのしかかっていたのである。 そんな中での、中川元大臣のあの醜態である。 僕は目を疑ってしまった。 当然、映像は世界中に配信され、批判・揶揄のコメントが付けられた。 重要な国際舞台で、日本は大変な恥を曝してしまったのである。
しかし、問題は「世界に恥を曝した」ことだけにあるのではない。 それよりも何よりも、この経済状態の中、国内でも多くの人々が職を失い、住む場所を失い、中小・零細企業は仕事がなくなって倒産し、自殺者・ホームレスも増えている。 先日発表された2008年10月〜12月期の日本のGDPは、麻生首相が国会で「日本はたいしたことはない」と発言したのとは裏腹に、年率換算で-12.7パーセントと、先進国中最悪であった。 こんな時こそ、政治の舵取りが重要である。 景気回復のために、限られたリソースをどう分配していくのか、どんな施策を打っていくのか。繰り返しになるが、それはこの国や、貿易相手国等世界の国々の人々一人一人の生き死にに関わる。 そして、それを司る省庁が、他でもない財務省である。 中川氏は財務省と金融問題の両方を担当する大臣だった。すなわち、現在の政府の中で最も重要で、国家・国民の命運を握るポストに就いていた。 それにもかかわらず中川氏は、先の衆議院本会議における09年度予算案の答弁においても、漢字の読み間違いも含めて26箇所の読み違いをしている。 「どうせ3分の2を持っているんだから、最終的には予算は通るんだ。」 そんな気持ちが中川氏になかっただろうか。 でなければ、あんなふらふらな答弁ができるわけもない。 危機意識も緊張感もゼロである。
その挙句が、G7でのあの醜態である。 普段から酒癖は悪く、問題になっていたというが、あんな重要な国際会議に、どういうつもりで出席していたのだろうか。 いやしくも先進国に名を連ねるわが国の、財政の責任者である。 国益のみならず、世界全体の経済状況を的確に分析し、中・長期的な施策と、喫緊の課題に対する施策の両方を積極的に提案し、各国の利害の調整を図るくらいの仕事は、やってしかるべきだ。 風邪薬など飲んでいる場合ではないのである。 そして、これらのことが大騒動になったと知るや、今度は「辞任しない」→「予算が成立したら辞任する」→「即日辞任」と発言が二転三転した。 本来ならば、あの記者会見を見た段階で、麻生首相は即刻中川氏の罷免を発表すべきだった。それ程の失態だったというのは、誰の目にも明らかだった。 それなのに、帰国した中川氏に麻生首相が言ったのは、「体調管理に気を付けて、仕事を続けるように。」ということだった。 これは「盟友をかばった」ということらしいが、そんなところに私情を挟んでいる暇はない。また、内閣傷が付くこと、野党に攻撃材料を与えることを避けたかったことがその理由だったのだとしたら、完全な判断ミスだ。 果たせるかな、野党の抵抗と世論の力で中川氏は翌日辞任に追い込まれた。 その時、任命責任を問われた麻生首相は、「優秀な方で、仕事はきちんとやっていたと、私は今でもそう思っています。」 と答えた。 呆れてものも言えない。 あれで「ちきんと仕事をしている」のであれば、新橋のガード下のサラリーマンはみんな「仕事中」だ。 何より、以前から酒癖の悪さで有名で、様々な逸話に事欠かない中川氏を、「お友達」だというだけで重要ポストに就けた麻生首相の任命責任は、どう言い逃れをしようと消えることはない。
今回の一件は、日本の経済、そして政治の迷走状態、酩酊状態を象徴的に表しているのではないか。 何の知恵も出ない、何の対策も打てない、国民が見えず、対応はちぐはぐ。この国をどこに導こうとしているのか、考えるには頭がはっきりせず、朦朧としているのだ。 もはや疑念の余地はない。 麻生内閣はもはや統治能力はない。そして、そんな内閣に国を任せる程、さすがに国民はそこまでお人好しではないし、そんな余裕もない。 「景気対策が最優先」というが、朦朧とした頭で作られた景気対策では、国民は救われない。 麻生内閣は即刻総辞職すべきだ。 そして、野党第一党に政権を渡し、すぐにも民意を問うための総選挙を実施しななければならない。 何度も言うが、国民は追い詰められている。 もう命脈が尽きた内閣が崩壊していくのに付き合っている暇はないのだ。
僕が今回のことでもう一つ不思議に思ったことがある。 それは、中川氏の会見が行われ、その映像が配信された段階で、民法各局は中川氏の言動の異常さを伝えていた。 ところが、NHKだけはその日は中川氏の発言は伝えたものの、その発言が記者の質問とちぐはぐな受け答えの部分だということは敢えて触れなかった。 つまり、口調はおかしいが、普通に質問に答えているようにしか、視聴者には見えないように編集していたのだ。 (それでも、普通に見ていれば、大抵の人は中川氏の異常には気付いただろうが。) そして次の日、世界のメディアまでが取り上げるに及んで、漸くNHKはニュースでこのことを取り上げたのだった。しかし、そこに批判的なトーンはなく、ただ中川氏の釈明をそのまま伝えるだけだった。 一体NHKは何を恐れたのだろうか。 そして、NHKという、視聴者からの視聴料で成り立っている巨大な「公共放送」という組織は、一体誰の方を向いて報道しているのだろうか。 以前、太平洋戦争の従軍慰安婦問題を扱った番組が、自民党の実力者(このときも中川氏が関与していた)の「事前検閲」」によって内容を歪曲させられたことが問題になった。 あの体質はまだ改善されていないのだろうか。 NHKにジャーナリズムはあるのか。はなはだ疑問が残る一幕だった。
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