トキオ(仮名:21歳 ♂)が名古屋を訪れ、
あたくしのありとあらゆるプライヴェートをインタビューしていったこの日。
痛感しました・・・・。
あたくしは、幸せなのかもしれません。
あたくしの存在をちゃんと認識してくれているありがたいお人がいる、
あたくしは、彼らのことを、うんと大切にしなくてはならない・・・・そう思った。
あたくしの出演する何かにかぶりつきに来る数千人の
顔もわからない、素性も知れないファンよりも
あたくしにはきっと、彼らのことを大切にしていく義務と権利があるのだと
再確認させられた。
量ではない。
質だ、と。
そんなあたくし。
只今、苦悩に苦悩を重ねて迷走中・・・・( ̄∇ ̄;)
それでも、トキオたちはあたくしのことを知りたがる。
あたくしのコアに触れたがる。
あたくしという「1個」に興味を持ってくれている。
とある、アーティストとして。
とある、女性として。
とある、人間として。
とある、弱いものとして。
とある、有機体として。
さて。
トキオにどんな話を聞かれたか。
それについて少し書きましょう。
多くは、あたくしそのものが今こうしてあるまでの道程についてだった。
つまるところ、発展途上ではあるが、ある1つの「人生」のパターン。
話していくうちに、あたくし自身が「自覚」・・・・
つまり、アイデンティティに至るという事柄もあった。
話した内容は、いつもオーアエに話しているようなことだ。
遡れば幼稚園時代、そして小学生時代、中学・高校時代、大学時代・・・・
一区切りずつの、あたくしという存在について、
事細かに紐解いていった。
勿論、病気のことについても話した。
トキオは、
「触れられたくないこと、タブーなことは避けてくださってかまいません。」
と言ったが、トキオには以前から沢山の話をしているので、
今更隠し立てするようなことはなかったし、
ここにも書き付けているオーアエ決戦記で公表していることは
タブーなことのように見えて、実はあまりそうではない。
テープ起こしの際に、聞きづらいようなことがあれば、それを参考にするようにと
こちらが提案したくらいである(笑)。
病名に関しても、生い立ちに関しても、
あたくしには何も隠すことなどない。
学校について、いじめについて、虐待について、人間関係について。
家族構成、自分にとっての衝撃的な事件、恋愛、エトセトラエトセトラ・・・・。
ほぼ、この日記に登場した事実ばかりであったが
彼は、熱心に1つ1つを丁寧に聞いてくれた。
自分の中にいる、自分以外の4人のことも、彼には東京時代に話してある。
そして、彼の知らないところで新しいもう1人が登場したことも報告した。
一通り話したところで、トキオがポツリとこう言った。
「日野さんは、とてもセクシャルな人なんですね。
男性的な部分、女性的な部分、その中間な部分・・・・
人には色々な側面があると思うんですけど、
日野さんはそれをとてもセクシャルな区分で使い分けてますよね。」
「あぁ・・・言われてみれば、そうかもしれないわね。」
「自覚は・・・・?」
「勿論、している部分としていない部分があるわ。
していない部分での自分の振舞は、はっきり言って、責任負いかねるし。」
「でも、この人間関係で上手くやっていこうとしたら、
その使い分けみたいなものも、必須だったのかもしれませんね・・・・。」
「何とでも言えるけど、所詮は保身であり、武装よ。
あんたが学校にいかないという選択をしたのが羨ましいと思う。
あたしはそういう選択をするかわりに、保身術を身につけた。
元々、強い子じゃなかったの。
優柔不断で、のろまで・・・・それを醜悪な姿だと思ったのね。
そういう自分がすごく嫌いでね。
だから、一平や真冬や朝美があたしの楯になってくれた。」
トキオは、今でいう不登校児だ。
中学の頃、「学校」という場所に自分が馴染めないということに気づいた彼は、
その場所に行かないという方法を選んだ。
あたくしが最初にそれを聞いたのは、まだ祐天寺のスタジオ時代で、
彼も17歳だった。普通なら、高校で青春を謳歌している年齢だ。
彼は、東京にある有名なフリースクールで教育を受け、
一応、義務教育を済ませたことになっていた。
あたくしは、「学校」という場所で自己を如何に確立するかというのに
全力を尽くしていたのに比べて、彼の選択はとても素直で勇気があり、
洗脳されてきたあたくしに、多分に大きな影響を与える存在でもあったのだ。
どうして、あたくしは学校を休む、行かないという選択肢を
あえて最初から抹消してしまっていたのだろう。
辛いことも沢山あったのに・・・・
行きたくないと思ったのに・・・・
死にたいとすら考えたのに・・・・。
トキオの質問内容は、多分、普通の人にとってはヘヴィなのかもしれない(笑)。
こんなことも訊かれた。
「死にたいと思ったことはありますか?
そして、それを思いとどまらせたものって何ですか?」
死にたいと思ったことと、それを思いとどまったことを
ワンセットにしているところが面白い。
無論、当たり前すぎることだからなのだ。
だって、インタビューしている相手は、死にたいと思ったことを大前提としていて、
そして、今、生きているんだから、どこかにそれを思いとどまらせた事がある。
彼の発想の豊かさと、人を選んでこの質問をしているところには頭が下がる(爆)。
「(爆)・・・・あんたねぇ、あたしが『死にたい』と思ったことがあるって想定して
その質問するの、やめてくんない?(爆笑)」
「あ、すみません(苦笑)。」
「あるわよ。『コレ』の所為で、1度だけね。」
「やっぱり、ありますかぁ・・・・。」
あたくしが、中学の頃の人間関係を説明するのに図解して示したメモを指しながら
そう言うと、彼は納得して頷いた。
その図解を見ながら彼は、
「15歳の人間関係じゃないですよ、『コレ』は・・・・。」
とも言った。
「疲れちゃったっていうのが、まずあったかな。
でも、『死にたい』っていうのは、行動を起こすことに関していえばMAXよね。
『死ぬ勇気があるなら、その勇気とパワーで生きてみればいい』なんて
偽善者ぶったことを言う人は嫌い。
だけど、自殺を推奨しているわけでもないの・・・・。」
「じゃあ、改めてお聞きしますけど、それを思いとどめたものって何ですか?」
「・・・・何だろう。良くわからないわ。」
「あったかい・・・・『何か』とか・・・・?」
「いや、それはない。ただ、そう考えているうちに、
時間がどんどん過ぎていっただけって感じ。
で、MAXだった気持ちがだんだんと醒めてきて、いざ冷静になった時に、
思いとどまった一番の理由っていうのが見えてきた。」
「何だったんですか?」
「恨みよ。」
「・・・・・・。」
「あたしが死んでも、あいつは生き残る。そういう恨みよ。
悔しくてね。そうしたら、『死ぬこと』そのものに意味なんてなくなっていったわ。」
あたくしにとっても、コレを口にするのは初めてだったかもしれない。
「自覚」するのが恐ろしい内容でもあったから。
「恨みを糧に生きてます」・・・・なんて、誰に言えよう?
だけど、10年以上前に抱いた感情を改めて噛み締めてみるというのは
決して悪いことではなかった。
今、こうして生きている瞬間瞬間に「恨み」が伴なっているわけではないし、
面白おかしい日常が皆無というわけでもないし。
あたくしを当時、サルベージしてくれた人たち(トモくんとかリエとか)についても
この話をする前にしていたので、トキオは少し、不思議そうな顔をしていた。
だけど、「死にたい」と感じたのはサルベージされる前だったし、
それを思いとどまったのも、サルベージの直前だった。
「あったかい何か・・・・決してそんなものじゃなかったわ。
寧ろ、逆。冷たくて、とっても醒めた感覚。」
「はぁ・・・・。」
「勿論、あたしのことを助けてくれた人に対して、あったかい気持ちにはなったけど、
それは、死なないと自分で決めた後だったから。
だから、それが直接の理由じゃない。」
「疲れてて、『死にたい』って思って・・・・でも、どうしてそんなふうに?」
「どうしてだろう・・・・あたしにもよくわかんない(笑)
でも今思うと、これも武装とか保身術とかの一環なのかも。
『負ける』の、嫌いだったし(笑)。
死ぬことが、負けることにみえちゃった瞬間に、醒めちゃったのかも(笑)。」
「あぁ、なるほどねぇ。」
そうか。
人一倍、「負ける」ことを嫌うあたくし・・・・もうこの時点(15歳)で
確立されてたのか。
改めて再確認すること、結構いっぱいあるなぁ・・・・。
あたくしは、当時のことを思い返して、ちょっと感慨に耽ってしまった(苦笑)。
「でもね・・・・新しい人、素敵な人に出会うその度に、
あの時のことは必ず思い出すわ。
『あの時死んでいたら、この人には出会えなかった』
そう思うと、自分の選択が本当に正しかったっていう裏づけって言ったら変だけど
倍、嬉しくなるの。
良くも悪くも、あの時死んでたら、あたしは変わらなかった。
色んな人の影響も与えてもらえなかったしね。
好きな人も増えていかなかった・・・・。」
そう。
好きな人、大切な人、あれからどんどん増えていった。
そういう人が増える度、あたくしはいつも
意識的にも無意識的にも、あの瞬間に立ち返っていた。
人に揉まれて、影響を受けて、そして初めて自分のベクトルが決まっていって。
あんなにも、ややこしい人間関係を構築してしまったのにも拘わらず、
あたくしは結局「人」の中にいないと、自分で自分の存在を確認することが
できないでいたのである。
これも、再確認事項の1つ。
弱っちいな・・・・自分の事をそう思った。
彼に質問をされる度、どんどんヴェールが剥がされていく。
不快とは思わない。
興味を持ってくれている彼には、最低限の礼儀として、
そういう弱っちい自分もさらしておく必要がある。
弱っちくても、虚勢をはっちゃって、強く見せなきゃ世渡りもできないでいる、
こんなあたくしもいるんですよ・・・・と。
小さな小さな、主張もこめて。
存在を追われた経験のあるあたくしも彼も
そこに何か注釈を入れなくても、何となくだがその主張のやりとりが成立した。
彼がかつて経験した「痛み」とあたくしが経験した「痛み」を
相対的に比較することなどできない。
ただ、「痛い」と感じた経験がある・・・・たったそれだけの共通項で
興味を持ったり、持たれたり、そういう関係も成立するんだな・・・・
そういうのも知った。
トキオの痛み。
あたくしは自分で、相対的に比べることができないとわかっていても
あたくしのよりも数倍、数十倍、数百倍、辛かったのかもしれないなぁ。
そんなふうに思いながら、真摯にあたくしの話を聞く彼の顔を見た。
彼が17歳の頃。
オトナ不信の空気をギラギラと漂わせてスタジオにいた彼の雰囲気は
欠片もなかったけれど、
肝心の箇所。変わっていないな、と思った。
彼は・・・・トキオは、本当に根っから素直なのだ。
だから、彼と出会った当時、オトナに対しての不信感も素直に表出させていたし
自分が逃避の選択をしたこともきちんと受け止めている。
今の彼のコアを構築しているその「素直さ」は、確実に大きな武器になる。
ただ、今までは素直な故に、弄ばれ、傷つけられ
受けるべきではなかった「痛み」を経験しなければならなかった・・・・それだけのことだ。
こちらばかりが提供しているのも面白くないので、
あたくしは自分の作品を、提供した上で感想を聞くことにした。
今書いている、短編オムニバス「ガールズライフ 〜花鳥風月をとめの事情〜」。
4篇のうち3篇まで書き上がっていて、
花鳥風月の最終章となる「月」の部分をどう作るかで煮詰まっていて、
その突破口が欲しいという、具体的な目的もあったのだが、
いつもあたくしの作品を客観的にとらえてくれる彼の意見は、
実際、とても参考になる。
彼はこんなふうに言った。
「いつも思うんですけど、日野さんの作品はドロリとした何かがありますよね。
昨今は、そういうのをガンガン露出されたのばかりが好まれて売れていますけど、
このシリーズは、そういうドロリとしたものがあるのに
ちっとも外に出てきていない。
そういうのってある意味、好感が持てると思うんですよ。
すごく普通の女の子たちばかりなのに、何か共通項があるような気がするし・・・・。」
「やっぱりある? 共通項。」
「えぇ。あると思いますよ。」
「何? 何だと思う? 教えて。お願い。」
「う〜ん・・・・まず3人とも、すごく静かなんだけど
内面にドロリとした部分がある。」
「それって、いつもの『女性』的なモノ・・・・?」
「あ、そうかもしれません♪ あと・・・・3人とも『孤独』ですよね。」
「孤独・・・・かぁ。」
「あと、日野さんの側面という側面が切り取られて拡大されてるっていうか・・・・。」
「まぁ・・・・それはあるかも(笑)。
あたしの側面が彼女達に投影されてるかどうかはわからないけど
自分のフォルダにないものなんて、結局書けないもんねぇ。」
「そうですよ。
だから僕は4人目も『孤独』な人が出てくるんだと勝手に予想しちゃいましたね。」
「なるほどねぇ。
ふむ・・・・そういえば、ここに出てくる女の子たちって、
あたしがこの年頃に会いたかった人たちなのかもしれないなぁ。」
「あぁ!! なるほど!!
それはすごく納得がいきます!!」
「それにしても、『孤独』かぁ。
あたしって、結局『孤独』なのかねぇ?(笑)」
それを聞いて、トキオは苦笑していた。
彼にはあたくしが「孤独」などとは縁遠いように見えていたのかもしれない。
けれど、「孤独」が投影された作品を目の前にして、明らかに二の句が告げずにいる。
まぁ、あたくしが実際に孤独かそうでないかはおいといて、
彼の意見・感想はとても参考になった。
何とか次のが書けそうな気もした。
ありがたい、ありがたい。
そして。
あたくしが、明らかなる「女性」であるにも拘わらず、
どこかに「男性」を潜ませているというのも再認識させられた。
自分で「女性」をアピールしつつも、
都合が悪くなると、すかさず自分の中の「男性」を利用しているということも。
あたくしの未熟な「ジェンダー・アイデンティティ」は
あたくしよりもきっと濃密な20年を暮らしてきた、
素直でたくましい男性、トキオによって、
少しは確かなものになったかもしれない・・・・。
月経も終わりかけの、1月末日。
昨日は、あたくしが
命がけで愛した・・・・芝居をやめてもいいとすら思った・・・・オトコの誕生日。
あたくしの中で、明らかなる「女性」が疼いているのが自分でもわかった。
あんなにも激しく、人を愛することなんて、この先来るだろうか。
激しけりゃいいってもんじゃないけど、
「女性」としては、あぁいうのはなかなかどうして、
人生においては結構な醍醐味だわよ・・・・と青春懐古をした1日だった。