「あのね、私、この9月で異動をするんだよ。」
あたくしにとってこの一言は、かなぁ〜〜り、ショッキングなお知らせだった。
この大病院に通い始めて1年。
あたくしのカルテもかなり分厚くなった。
そのカルテには、あたくしの支離滅裂な発言や、オーアエの極々偏った個人的な見解などなど、山のように記されて、このカルテを元に1冊の本でも出版できるんじゃないかってなくらいなほどの分量になった。
「勝負」と銘うって、このイージーオヤヂとやりあってきたわけだけど、この病院から間もなくいなくなってしまうとなると、それはそれで、正直すごく寂しい。大垣市の公務員じゃなくて、やっぱりちゃんとしたお医者だったのね、彼( ̄∇ ̄;)
加えて、「寂しい」などという単純な問題でもないのである。
このまま、この大病院に通い続けるとなると、あたくしの主治医は自然と変更という扱いになる。
コレは困った事態である。
今まで、あたくしの口から自然に溢れ出すように話し溜めたカルテの資料は病院に残るけれど、それはあくまでオーアエならではの個性的な見解であって、引き継がれた先生が、果たしてその真相をきちんと理解してくれるかどうかというのは、とても不安なポイントでもある。
ここにきて、多少なりとも信頼関係みたいなものもできて、あたくしはたまにオーアエにわがままを言えるようにもなってきていたし、彼の出したオーダー通り、少しは「悪く」なれたつもりでもある。
「5人目」の確固たる存在も彼は認めてくれた。
次の先生が、引き継いで、そこんとこまでちゃんと面倒を見てくれるのかどうかが心配なのである。
相変わらず、薬の出し方にまで注文をつけるようになったわがまま振りを発揮しながら、あたくしはそれだけで少し不安になっていた。
頭がザンザンする。
多分、これはアモバンのせい。
立ちくらみもする。
これも多分、あんまり寝てなくて、あんまり食べてないからだ。
原因も理由も自分で分析できるようになった。
「そろそろ治ってよ(笑)」
「あたしだって、こうなりたくてなってるわけじゃないもん。」
「でも、あれは凄かったぞ、5人目。
(本名)って名乗らなかったからな。『名前をつけてもらったことなんかない』
ハッキリそう言ってたからな。面白いぞ、彼の存在は。」
「面白がらないで・・・・彼が出てくる度に、
どれだけあたしがヘトヘトになると思ってんのさっ。」
「そういや、ヒィヒィ状態だったもんな。
今日、出せ。今からすぐ出せ(爆)。
彼は、どんどん出してやった方がいいぞ♪」
そんなことを言いながら、オーアエは約束の書類を書いていてくれていた。公費負担申請の書類だ。これがあれば、夢の5%負担で診察が受けられる♪
・・・・のだが。
オーアエのいないこの病院にあたくしは、本当に来る気になるのかなぁ・・・・。
その公費負担申請の書類のあたくしの病名は、うつ病ではなく解離性障害だった。
紛れもなく、オーアエは「5人目」を目撃してしまったので、面白がってそっちの病名をつけることにしたんだろう。何だか難しい言葉を呟きながら、症状やら、処方している薬やらを書き込んでいった。
その書類を持たされて、あたくしはカオナシさんと一緒に医事局に向かって申請しに階段で降りていった。
「あのぉ・・・・オーアエ先生が異動なさるって本当ですか・・・・?」
「あぁ、先生から聞かれた?
オーアエ先生ね、名古屋の病院に移られるのよ。」
「そ・・・・そうなんですか。
そういう場合って、やっぱり新しい先生になっちゃうんですよね・・・・?」
「そうなのよねぇ・・・・こればかっりは難しい問題なのよね。
今もね、先生を頼って静岡から通ってみえる患者さんもいるくらいやから、
日野さんも名古屋の方へ通えるんやったら、
そっちへ通われた方がひょっとしたらえぇかもしれんね。
次の先生との相性が悪かったら、治るもんも治らへんくなるし・・・・。」
「・・・・・・・・・・。やっぱり、そうですよね。」
手続きをしてもらっている間、何とも言えず不安だった。
恋人との別れ・・・・とは少し違う。
オーアエは書類を書いている時に「精神治療」云々という言葉を口走ったのだけど、あたくしが
「そんなもの、してもらったことあったっけ??」
と言ったら、
「こういうふうに、話したりするのも、精神治療の一環なんだ!
ややこしい言い方をするだけっ(爆)」