今日も風が強かった。 ベランダに出て、 風の匂いを嗅いでみた。 夏の匂いが少ししてきている。 海の匂いだと MILETは言った。 潮の香りが風に乗ってきているのだ。 陋屋のある町は 海が近い。 冬の間は寂れていて、 いかにも田舎びた風情である。 だが、ひとたび夏となれば 近郷の人間どもが 海を求めて集まってくるのだ。 その時ばかりは、ひなびた街道も 活気を取り戻すのである。 そんな季節が もう、目前に迫っているのか。 まだ桜が散ったばかりだというのに。 風の匂いは、初夏のものだった。 俺様は多少とまどいつつも 己の毛衣が生え替わっていくのと併せて 夏への準備を始めようと思う。 まずは、冬の間閉ざされていた クローゼットを開けさせよう。 あの中には涼むのにちょうど良い、 格好の隠れ場所があるのだ。 MILETにそれとなく 催促してみることにしよう。
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